研究実績の概要 |
当初は前年度までの最終年度に国際学会発表と論文執筆を行う予定であったが、新型コロナ禍に伴う実験研究の遅れと計画修正に伴い、二度目の期間延長を行った。その結果、本最終年度は研究計画における研究2,ベクションを支える運動視の基礎過程に関する心理物理実験のみを実施し、国際学会European Conference on Visual Perceptionにおいて発表を行った。 これまでのVRヘッドセットを用いた研究から、姿勢制御には上視野より下視野へのオプティックフロー提示が有効であることが明らかになった(Fujimoto & Ashida, 2019)。この結果は知覚される自己運動(ベクション)とも類似しているが、上下視野の運動知覚特性の比較に関する先行研究の結果は一貫せず、原因は明らかになっていない。本研究では、ディスプレイ上に提示されたランダムドット刺激に対する知覚速度を上下視野に同時提示し、直接比較する心理物理学実験を行った結果、上視野が下向き、下視野が上向きのとき(縮小オプティックフローに対応)に上視野の動きが過大視されることがわかった。上下の運動が逆の場合(拡大刺激に対応)には顕著な差が見られなかった。しかし、続く実験において、比較刺激を中心視野に設定して継時比較を行った場合には、上下視野間で違いが生じなかった。運動検出過程そのものには大きな違いはなく、無意識の注意誘導などによる影響が示唆される。 加えて、オプティックフローによる速度知覚が、ズームレンズによって恒常性を保てなくなる現象について理論的に考察した論文を発表した。全身運動の動画をズーム拡大すると動きが遅く感じられるが、これは写真、動画像の幾何学的性質に沿っているが、それが錯視のように感じられること自体が認識の錯誤であることを論じた。
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