研究課題/領域番号 |
19K03371
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
金沢 創 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (80337691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳児 / 視覚 / 文化差 |
研究実績の概要 |
西洋人は風景を物体ベースに分析的に処理する一方、東アジア人は風景を全体的に処理し、同じ画像に対しても異なる眼球運動パターンが観察されている。Nisbett(2004)以来、思考様式を含めた知覚スタイルの文化差は数多く報告されているが、なぜその違いが生まれるかについては、漠然と社会構造の違いにその起源を求めているのが現状である。本研究計画では、前景と背景の知覚スタイルの違いが、発達初期の段階ですでに生じているとの仮説に基づき、1歳以下の乳児にも西洋と東洋ではすでに文化差があるのではないかとの作業仮説を設定し、認知スタイルの文化差獲得過程を明らかにしていく。具体的には、風景画像に対する乳児の知覚実験及び眼球運動の測定から文化差を明らかにしていくことをその目的とした。 本研究計画では、数多くの知覚認知の文化差を示す現象の中らか「背景と前景の分離」という現象にターゲットを絞り、主に眼球運動の指標を用いながらその文化差の発達過程を検討していくが、具体的な実験実施に向けて、最適な刺激と最適な実験パラダイムを決定すべく予備的な実験を最大限に重視した。具体的には、顔刺激を重視し、背景と組み合わせることで実験を行った。また、フランス、スイスなどの国際的な協力関係にある赤ちゃん実験サイトと共同しながら、同じ実験パラダイムを用いて、知覚認知発達の文化差を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、数多くの知覚認知の文化差を示す現象の中らか「背景と前景の分離」という現象にターゲットを絞り、主に眼球運動の指標を用いながらその文化差の発達過程を検討していく予定であったが、より実質的なデータ取得の必要性により、顔刺激とその背景を用いた検討が重要であることが、予備的な実験により明らかとなった。具体的には顔画像を用いてその目の部分を変化させることにより、眼球運動を測定する方法論や、シンプルに馴化法を用いて、顔刺激なしの背景に顔刺激が登場した場合と、コントロール条件として、家画像などを、全く同じ背景刺激に配置し、これを馴化法により検討する方法などを検討している。 これらの実験方法を、主にフラスンとスイスの共同研究者の赤ちゃんラボにおいて、同じ方法論で検討することにより比較可能なデータ取得をめざしている。 現在、コロナウィルスによる活動自粛により、実験室に赤ちゃんを呼んで実験的検討を行うことが、日本のみならずヨーロッパにおいてはたいへん困難な状況であり、少なくともヨーロッパにおける実験再開が9月以降であるから、若干の計画の遅れはやむを得ないが、引き続き最適な実験状況を決定しデータ取得に努めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
実験的方法については、引き続き選好注視法および馴化法を用いた行動実験を軸に、眼球運動を測定する計画書にあるとおり、眼球運動を用いた方法も検討していく。また、海外サイトが本年度中の実験再開が難しい可能性もあることから、主に国際的比較可能な実験パラダイムの検討を、日本において開発していくことを念頭に準備を進める。 実験手法としては、当初計画していた単純な馴化法のみならず、連続的に高速で刺激を呈示するRSVPを使ったものや、2枚の画像を切り替えることで変化を検出するchange detectionパラダイムなども用いながら、どのような刺激であれば乳児の注意を引き付けることができるのか、どのような呈示時間と順序に留意すれば、乳児の注視行動を引き出すことができるのか、どのような実験配置を組めば、背景刺激と前景刺激に適切に注視を向けさせることができるのか、といった点に配慮しながら、今後の研究を推進していく。 刺激呈示時間についても、例えば1枚あたりの刺激呈示時間を5秒にすべきなのか、10秒にすべきなのか、といった点や、呈示の順序を同じカテゴリーに属するものをブロックにすべきなのか、あるいはランダムに配置すべきなのか、といった点が重要となる。さらには、実験呈示方法も、伝統的な馴化法の手法に則って実施すればよいとうものではなく、change detectionやRSVPなど、成人の認知心理学の分野においては当然のごとく用いられている手法を、言語教示を用いることができない乳児に対して適用していく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた最大の理由は、実験パラダイムの構築のための試行錯誤に時間を要したことである。呈示時間や、乳児の注視を引き出す刺激呈示方法などについて、様々な方法を検討することが実験成功の鍵となる。実際の実験実施に関する予算の費用についてはその執行を猶予することで次年度使用が生じた。 一般に乳児実験においては、乳児に対して教示や指示を行うことが不可能であるため、行動指標、中でも注視行動を指標として実験を行っていく。今回の研究計画においても、馴化法をベースに背景刺激と前景刺激への注視を引き出し、その変化に気が付くかどうかを、注視時間の測定により捉えようと計画していた。しかしながら、こうした手法においては、そもそも計画されていた実験刺激を入念にチェックし、その刺激の顕在性や弁別のしやすさなどを調整することが必須となる。 こうした実験パラダイムの総合的な検討が、国際的なハイインパクトなジャーナルにおけるレビュー過程に耐えるものにするために、必須のものとなる。想定された研究計画のうち、研究計画書にはなく、また論文のイントロダクションにもない実験パラダイムに関する詳細な検討について時間をかけた結果、実際にそのパラダイムを適用して実験を実施していく費用については、その執行を猶予し、次年度実施することとした。
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