研究実績の概要 |
前頭葉の高次運動野や頭頂連合野の傷害によって引き起こされる典型的な臨床症例の一つに、麻痺症状はないにも関わらず、外部から動作を指示された場合に指示された内容は理解していても動作として表現できないという症状がある。すなわち動作には高次な表現(動作アイディア)と実際の運動(アクション)の表現があると考えられるが、その神経基盤は依然としてわかっていない。本研究課題は、動作アイディアに基づくアクションの実行過程の神経基盤を明らかにすることを目指した。 前年度までに、動作アイディアやアクションに関わる要素を時間的に分離することができる新規の行動課題を作成した。具体的には、まず画面上に文字を提示し、その文字が「開ける」もしくは「閉める」といった動作アイディア、または「右に動かす」もしくは「左に動かす」といったアクションを指示する。続いて、ドアの画像が提示される。被験者は、提示されたドアの種類に合わせて、開けるもしくは閉めるためのアクションを行うことが求められる。前年度までにこの実験課題を遂行中の被験者の神経活動を7テスラMRI装置を用いた機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) によって測定する実験を実施した。本年度は解析を進め、運動前野背側部が、視覚情報と動作アイディアやアクションとを結びつけること、動作アイディアからアクションへの変換、アクションの特定、アクションの準備の各過程に関与することを示唆する結果が得られた。これらをまとめた成果が、NeuroImage誌に掲載された (Nakayama et al., 2022)。
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