研究課題/領域番号 |
19K03379
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐野 一広 筑波大学, 人間系, 特任助教 (60736081)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会行動 / 思春期 / 性ステロイドホルモン / エストロゲン受容体アルファ / エストロゲン受容体ベータ |
研究実績の概要 |
本課題では、性ステロイドホルモンによる社会行動神経回路の機能的性差形成のメカニズムの解明を目指し研究を進めており、これまで以下の知見が得られている。 1)ドキシサイクリン(DOX)存在下でのみERαに相補的な配列をもつshRNAの発現が誘導されるように設計したベクターを組み込んだアデノ随伴ウイルス、AAV-U6/TO-ERα shRNA-CMV-TetR-P2A-GFPを用いて、視床下部腹内側核のERαを思春期限定的にノックダウン(KD)し、成熟後の雄性社会行動を観察した結果、発情雌に対する性行動の発現が著しく減少することが明らかになった。この結果は、思春期における視床下部腹内側核でのERαを介した性ステロイドホルモンの作用が、雄の性行動表出の基盤となる神経回路の構築に不可欠であることを示すものである。一方で、雄に対する攻撃行動の発現への影響は見られなかった。 2)ERβ BACプロモーターの下流に赤色蛍光タンパク室(RFP)遺伝子を組み込んだBACトランスジェニックマウス(ERβ-RFPマウス)を用いて、発達過程における、雄マウスのERβ脳内発現パターンの変化を解析し、分界条床核及び内側扁桃体では、生後28日齢から56日齢にかけてERβ発現細胞数が増加していくこと、視床下部腹内側核ではERβ発現細胞数が減少していくことを明らかにした。また、思春期開始前に精巣を除去すると、分界条床核及び内側扁桃体で見られたERβ発現細胞数の増加が見られなくなること、一方で、視床下部腹内側核で見られたERβ発現細胞数の減少は精巣を除去しても確認された。この結果は、分界条床核及び内側扁桃体で見られる発達に伴うERβ発現細胞数の変化は、思春期に増加する性ステロイドホルモンの作用に依存的であるのに対し、視床下部腹内側核での変化は性ステロイドホルモンの作用からは独立して起きていることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)に関しては、既に十分な量のデータ収集ができており、投稿論文を執筆中であること、2)に関しても、追加実験を行っている段階であることなどから、一定の成果は得られているものの、COVID-19の影響から、当初の予定通りには進行していない。
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今後の研究の推進方策 |
解剖学的解析から見出された、思春期の間に、視床下部腹内側核におけるERβの発現が減少していくという変化が、雄マウスの社会行動の成熟にどのように関係しているのかを検討するために、RNAiを用いて思春期開始前にERβをKDし、思春期から成熟後までの行動表出の変容を継時的に観察する。また、思春期にERαもしくはERβをKDすることで、社会行動場面における視床下部腹内側核の活動性にどのような影響が見られるのかをファイバーフォトメトリー法を用いて計測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、実験の進行に遅れが出たことに加え、当初旅費・人件費として計上していた額を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。最終年度である次年度中に実験の遅れを取り戻すため、加えて精力的に成果発表を行なっていくために、次年度使用額分も必要である。そのため、当初計上していた額に加え、次年度使用額分全額(物品費に200,000、旅費に100,000、人件費に200,000、その他に173,035、計673,035円)を追加で計上する。
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