本課題では、性ステロイドホルモンによる社会行動神経回路の機能的性差形成のメカニズムの解明を目指し研究を進めてきた。その結果として以下の知見が得られている。 1)ドキシサイクリン(DOX)存在下でのみERαに相補的な配列をもつshRNAの発現が誘導されるように設計したベクターを組み込んだアデノ随伴ウイルス、AAV-U6/TO-ERα shRNA-CMV-TetR-P2A-GFPを用いて、視床下部腹内側核のERαを思春期限定的にノックダウン(KD)し、成熟後の雄性社会行動を観察した結果、発情雌に対する性行動の発現が著しく減少することが明らかになった。この結果は、思春期における視床下部腹内側核でのERαを介したテストステロンの作用が、雄の性行動表出の基盤となる神経回路の構築に不可欠であることを示すものである。一方で、雄に対する攻撃行動の発現への影響は見られなかった。 2)ERβ BACプロモーターの下流に赤色蛍光タンパク室(RFP)遺伝子を組み込んだBACトランスジェニックマウス(ERβ-RFPマウス)を用いて、発達過程における、雌雄マウスのERα、ERβの脳内発現パターンの変化を解析し、性ステロイドホルモン受容体発現パターンの性差が形成されていく過程を検証した。その結果、前腹側脳室周囲核において、雌では、生後14日齢から生後42日齢にかけてERαの発現量が増加していくこと、一方、雄ではERαの発現量に変化は見られなかったが、生後14日齢から生後35日齢にかけてERβの発現量が減少していくこと、分界条床核では雌でのみ、生後14日齢から生後35日齢にかけてERα、ERβの発現量が増加することで、生後14日齢で見られた雄優位な性差が消失すること、視床下部腹内側核では、生後14日齢から生後21日齢にかけて、雌のERα発現量が増加し雌優位な性差が形成されること、また、生後14日齢から、雌雄共にERβの発現量が減少していき、生後56日齢ではほぼ消失することなどを突き止めた。
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