研究課題
本研究の目的は,腹側被蓋野(VTA)から終脳辺縁部に投射するドーパミン(DA)系が,学習された目標指向行動(たとえば,報酬を得るためにはたらく,のような)のモチベーション制御において果たす役割を解明することである。そのために,実験心理学や行動経済学の方法論を融合し,げっ歯類のモチベーションを精度よく定量するための新たな行動タスクとデータ解析系を開発するとともに,標的ニューロン/回路の活動を可逆的に興奮/抑制するためのケモジェネティクス技術を開発・最適化する。この両者を併用し,神経基盤の活動と行動表現型の間の因果関係を具に解析する。3年の研究期間を予定している。全体計画の2年目に相当する2020年度には,標的ニューロン活動の興奮性制御(IR-mediated neuronal activation: IRNA)系を完成させ,その成果を原著論文として発表した(Fukabori, Iguchi et al., 2020, J Neurosci)。このIRNA系を用いてVTA DAニューロンの活動亢進を誘導し,生化学的手法を用いて辺縁部への機能的投射回路を同定した。この回路を抑制性制御系を用いて活動抑制しながら行動表現型解析をおこない,モチベーションの制御において重要な役割を果たす回路を同定しつつある。最終年度である2021年度には,抑制性制御系だけでなく興奮性制御系(IRNA)も用いて,モチベーションの制御回路の機能解析をすすめる。
2: おおむね順調に進展している
従来,化学遺伝学的な手法による標的ニューロンの活動制御技術は,もっぱらGタンパク共役型受容体のミュータントを利用したものであり,適用範囲に限界があった。我々は,イオンチャネル型の興奮性制御(IR-mediated neuronal activation: IRNA)系を完成させ,2020年度にその成果を原著論文として発表した(Fukabori, Iguchi et al., 2020, J Neurosci)。このIRNA系によりVTA DAニューロンの活動亢進を誘導し,軸索終末から放出されるDA量をダイアリシス法により分析し,D2R陽性のVTA DAニューロンの機能的投射回路を複数同定した。この回路を,これもやはりイオンチャネル型の抑制性化学遺伝学制御系(イベルメクチン-GluCl系)を用いて活動抑制しながら行動表現型解析をおこない,モチベーションの制御において重要な役割を果たす回路の同定に道筋をつけることができた。
2021年度は最終年度にあたり,全体計画を完遂させて,学習された目標指向行動のモチベーション制御におけるVTA DA系の役割を解明する。上記で述べたように,本計画は順調に進行しており,独自に開発したイオンチャネル型の化学遺伝学的標的ニューロン活動制御技術を用いて,VTA DAニューロンの活動を可逆的に興奮/抑制し,神経基盤の活動と行動表現型の間の因果関係を詳細に解析することで,目標を達成する見込みである。
研究を計画通りに進めていく上で必要に応じて予算執行したため,当初の見込み額と執行額の間にわずかな差額が生じた。しかしながら,研究計画やその進捗見込みにおいて大きな変更はなく,おおむね計画通りに進行している。前年度の研究費も含め,2021年度も当初予定通りの計画を進める計画である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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https://www.fmu.ac.jp/univ/kenkyuseika/research/202011091.html