研究課題
本研究の目的は,腹側被蓋野(VTA)から終脳辺縁部に投射するドーパミン(DA)システムが,学習された目標指向行動(たとえば,報酬を得るためにはたらく,など)のモチベーションをどのように制御しているのか,解明することであった。そのために,実験心理学や行動経済学の知見を融合し,げっ歯類のモチベーション関連パラメータを推定・定量するための新たな行動タスクを設計・開発するとともに,標的ニューロン/投射回路の活動を可逆的に亢進/抑制するためのケモジェネティクス技術を開発・最適化した。両者を併用して,VTA-DAニューロン(系)の活動と行動表現型の間の因果関係の解析を試みた。前年度までの検討から,D2受容体陽性VTAニューロンの機能的神経終末として,背側線条体内側部,および側坐核コアが同定された。そこで,ウィルスベクターとトランスジェニックラットを併用し,センチュウ由来のグルタミン酸-イベルメクチン開閉性塩化物イオンチャネル(GluCl)を標的ニューロンに発現誘導し,標的ニューロン/投射回路の活動抑制を誘導した。イベルメクチンを,1)末梢(全身)投与,2)VTA局所注入,3)神経終末部局所注入する実験をおこない,モチベーションへの影響を総合的に評価した。その結果,VTAから側坐核コアへの投射が,報酬獲得コスト(価格)上昇時の意欲維持のために必要であり,なおかつ,起始核と神経終末の協調的動作により,価格がゼロのときの報酬摂取量が制御されていることが示唆された。本研究の成果は,動物のモチベーション制御におけるドーパミン系の役割について新たな知見を加えるとともに,モチベーションに障害を来す精神・神経疾患の病態を理解する上でトランスレーショナル価値の高い実験パラダイムを提供するものである。
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10.1101/2022.04.13.488137