研究課題/領域番号 |
19K03382
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
漆原 宏次 近畿大学, 総合社会学部, 教授 (00342197)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 刺激競合 / 連合学習 / ブロッキング / 比較傾向 |
研究実績の概要 |
私たちは日常の中で様々な推論を行うが、それは常に論理的かつ妥当なものとは限らず、むしろ一定の条件下で非論理的な推論を行う複数の傾向を持っているようである。本研究は、このような非論理的な推論を行う傾向の一つと考えられる、「排他的比較傾向」について、基礎的学習メカニズムの観点から、その性質・影響などを実験的に明らかにするものである。 排他的比較傾向とは、「AはBである」という関係性からもたらされるのと同様の影響が、「AでないものはBではない」という関係によりもたらされる傾向を指す。前者に対し後者は、命題で言えば「裏」の関係に相当するが、前者が真であっても後者は必ずしも真ではないため、この「排他的比較傾向」は、常に論理的に正しい行動・認知傾向をもたらすとはいえず、場合によっては様々な不適応な認知及びそれによりもたらされる行動の原因になる可能性があると考えられる。研究責任者の先行研究において、この排他的比較傾向に深く関連する可能性がある「非論理的ブロッキング」が、大学生を対象とした実験場面において明らかになっていた。本研究では、この「非論理的ブロッキング」と、この「排他的比較傾向」の関係と、排他的比較傾向の性質、個人差などを、実験・調査を通じ明らかにすることを目的とする。 当該年度においては、前年度に引き続き、感染症の流行により対面での実験が難しかったため、研究をより広範囲に簡便に行うことができるWeb上での調査研究に取り組んだ。所属機関におけるWeb上での研究実施システムの導入についてはかなりの進捗が見られ、Web上での調査研究を広範に実施するシステムについては整備ができたものの、一方で、これまでに選定した質問項目を用いた予備調査の結果から、排他的比較傾向を測定するにはこれらの項目は必ずしも適さないことが示唆され、項目の選定にさらなる吟味が必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、昨年度と同様、新型感染症の流行により、対人場面での実験研究がほぼ不可能な状況であった。これまで研究責任者が行ってきた、実験室におけるPCを用いたスタンダードな連合学習実験をすることができなかったため、実験研究における進捗は非常に限られたものとなった。一方で、研究責任者は所属機関におけるWeb実験実施・管理システムを中心となって整備・管理し、Web上での実験・調査を行う環境を整えた。今年度、考案した調査項目を用いて排他的比較傾向の測定が可能かについて、予備調査を試みたが、結果は芳しくなく、今後質問項目、ないし調査の在り方について再度検討していく必要があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、新型感染症の流行が収束しつつあるように思える状況に期待し、PCを用いた対人場面での実験において再度「非論理的ブロッキング」現象の検討を行い、その性質などを明らかにすることを試みる。また、同現象を調査場面において再現する試みについても継続する。今年度までに整備されたWeb上での調査研究を行う環境を利用し、一層の進捗が期待できる。調査研究において「非論理的ブロッキング」の再現を試みるのと並行し、「排他的比較傾向」を測定する質問紙について、項目を再吟味し、またデータ分析法などそれを測る方法を工夫することで完成を目指す。排他的比較傾向を測定する質問紙が完成すれば、その結果と、「非論理的ブロッキング」の程度との間にどのような関係があるのかを検討し、また、妬み、シャーデンフロイデ、弁証法的思考傾向など、「排他的比較傾向」と関連すると考えられる様々な心的概念との関連を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型感染症の流行により、対面での実験研究の実施、学会大会への出張・参加等が大きく制限されたことで、これらについて予定されていた支出を十分に行うことができなかった。 次年度使用額については、学会大会への対面参加が可能になった場合には旅費などの支出と、対面実験が可能になった場合には対面実験用のPCの購入に使用する予定である。また、新型感染症の流行が継続し行動が抑制される可能性も考慮し、調査会社にオンラインでの実験・調査データの取得を依頼するために使用することを計画している。
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