研究課題/領域番号 |
19K03384
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 裏切り行為 / 無意識的処理 / 非言語コミュニケーション / 眼球運動 / 瞳孔反応 |
研究実績の概要 |
本研究では裏切りの隠蔽と検出に関する申請者の研究から生じた「裏切りシグナルの隠蔽やその検出は無意識的な過程か、それとも意識的か?」という疑問を検討する。刻一刻と変化するコニュニケーションにおいて、裏切のシグナルを隠蔽し、それをかい潜り検出することは、共に時間的にも資源的にも負担が掛かる。その負担を考慮すると、これらの処理は無意識的・自動的に行われると考えられる。この仮説を検討するため、信頼ゲームという金銭をやりとりするゲームにおける裏切りと協調に着目する。そして、ゲームにおけるコミュニケーションに潜む無意識的過程を、表情や仕草に関する意識レベルの測定、連続フラッシュ抑制という意識的知覚を阻害する手法を用いる実験室的研究、そして眼球運動・瞳孔径測定を駆使して明らかにする。 今年度は、本研究において無意識的な過程を検討するための重要なツールである眼球運動と瞳孔反応の測定について方法論的な検討を行った。そのため、コミュニケーションにおける眼球運動と瞳孔反応の測定に関する基礎研究を行い、それらの結果をまとめ、オープンアクセスの国際的な学術雑誌であるPlos ONEに論文を投稿し掲載された。ここで蓄積した技術を活用し、さらに検討を進める予定である。 加えて、コミュニケーションにおける意識レベルを測定するための手法として、メタ認知の研究において使われてきたDienes and Scott (2005) の構造知識帰属法をコミュニケーション場面に適用する試みを行った。本研究では利き手のような意識できるレベルの行動の左右差と、今回検討の対象である意図の隠蔽に関わるポーズの左右差でどのような違いがあるのか検討をする。現時点で、予備的な結果が得られており、この検討結果を次年度(2020年度)の国際学会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に行う予定であったDienes and Scott (2005) の構造知識帰属法をコミュニケーション場面に適用する試みについては順調に進んでおり、概ね計画通りであると判断できる。現在、我々は構造知識帰属法を用いた試みについて、論文化を進めている。我々は、この手法をこれまで用いられてきたメタ認知に関する研究領域と全く違う領域で用いた。そのため、我々の手法の方法論的な妥当性について、現在、他の研究者と積極的な議論を行っている。この議論を通じ、十分な理論的な背景と論理を構築し、論文を完成させる予定である。 また、第2年度以降に実施予定である研究についての、技術的、方法論的な準備も進んでおり、これからの研究が順調に進行することを期待できる状況である。前項でも述べた通り、無意識的な過程を検討するための重要なツールである眼球運動と瞳孔反応の測定について方法論的な検討を行い、それらの結果をまとめ、オープンアクセスの国際的な学術雑誌であるPlos ONEに論文を投稿し、掲載された。このような副次的な検討から研究成果を得られたことは、幸運であることを、そして、我々の研究が順調に進展していることを示していると言ってよいであろう。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度は、構造知識帰属法を用いた研究の論文化を進める。また計画通り、新たな実験室実験を開始する予定である。具体的には、連続フラッシュ抑制を用い、裏切り検出における無意識的過程を、統制された実験室環境で検討する。連続フラッシュ抑制については、すでに実験機器ならびに実験プログラムの準備はおよそ終了しており、倫理審査等を経ればスタートできる状態にある。ただし、2020年度4月現在における新型コロナウイルス感染症の流行を鑑みるに、第2年度に計画通りに研究を実施できるかは慎重に検討する必要がある。特に、上で述べた連続フラッシュ抑制を用いた実験室実験は、狭い暗室で行うため、実験自体は個別で行うものの、いわゆる密集、密接、密閉の3蜜の要素を満たしてしまう。したがって感染が十分に収束したあとでなくては実験を行うことはできない。また、本研究の主要な研究場所である専修大学は、現時点で、学生の立ち入りは禁止、教員の立ち入りも極力自粛となっている。そのため、ヒトを対象とした実験を簡単に行える状況ではない。このような事態であることを念頭に置き、研究を進める必要がある。この研究は、ヒトを対象としたデータを取ることが主要な柱となっている。困難な状況でも、安全と健康に最大限の配慮をし、ヒトを対象とした実証的な研究を推進する所存である。しかしながら、完全に計画通りに進めることができるかは現時点では不明な部分も多い。 また、第2年度のため、得られたデータを論文化するには、十分にデータが得られてはいない状態である。しかしながら、初年度に行ったように、方法論的な検討を先に進めるなどして、できる限りの成果を得るよう心がける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月より新型コロナウイルス感染症が流行したため、2020年2月末から3月に予定していた海外での実験準備が困難になった。事態が収束後、2020年度に、これを実施する予定である。この実験準備のための旅費として、次年度使用額にあたる金額を使用する予定である。しかしながら、事態の収束については当方が予測できることではない。事態が収束しない場合は、この事態に対応するための対策費として、次年度使用額にあたる金額を使用する可能性がある。現在のところ検討をしているのはデータの取得を可能な限りオンライン化することである。計画した全ての実験や調査をオンラインで実施できるわけではないが、可能なものをオンラインで実施する。それにあたり、レンタルサーバー使用料やオンライン実験環境の使用料に、次年度使用額をあてる可能性もある。この事態の中でできる限りの対応をする予定である。
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