研究課題/領域番号 |
19K03384
|
研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 顔認知 / 社会的認知 / 無意識 / 意識 / 表情 / 動作 |
研究実績の概要 |
本研究では裏切りの隠蔽と検出をテーマに行ってきた申請者の研究を発展させ、「裏切りシグナルの隠蔽やその検出は無意識的な過程か、それとも意識的か?」という疑問を検討する。刻一刻と変化するコニュニケーションにおいて、裏切のシグナルを隠蔽し、それを掻い潜り検出することは、時間的にも資源的にも負担が掛か る。その負担を考慮すると、これらの処理は無意識的・自動的に行われると考えられる。この仮説を検討するため、信頼ゲームという金銭をやりとりするゲーム における裏切りと協調に着目する。そして、ゲームにおけるコミュニケーションに潜む無意識的過程を、表情や仕草に関する意識レベルの測定、連続フラッシュ抑制という意識的知覚を阻害する手法を用いる実験室的研究、そして眼球運動・瞳孔径測定を駆使して明らかにする。
昨年度から引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染は止まらず、ヒトを対象とした実験を計画通りに実施することは非常に困難であった。しかしながら、2021年の秋には、感染状況がわずかながら好転した時期もあった。その期間に対面での実験を行うことができた。また、代替的に実施したオンラインでのデータ取得も一部は成功し、それらをもとに研究を進めることができた。また、対人での眼球運動・瞳孔径測定の代替手段として、写真を用いた瞳孔径測定を行った。
少しずつではあるが、成果の公表も進んできた。構造知識帰属法をコミュニケーション場面に適用し、ポーズの左右差について意識レベルを測定した成果を論文としてまとめ、Laterality: Asymmetries of Body, Brain and Cognitionに掲載した。加えて下肢の左右差の意識的な操作、すなわち利き足の測定に関する論文をまとめ日本心理学会が刊行する「心理学研究」に採択された。このように計画に遅れはあるものの、計画は少しずつ進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、世界中の人々や出来事に大きな影響を与えた。昨年度から引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染状況は終息に至らず、ヒトを対象とした実験を計画通りに実施することは非常に困難であった。当該の研究課題は、実験心理学に分類されるものであり、対人の測定が不可欠である。予定された全ての実験は、個人を対象とした対人実験である。しかも、統制された環境を用意するため、狭い、必ずしも換気のよくない実験室で行わなくてはならない。密集、密閉、密接の3密状態であり、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する状況では、予定通りの実験は全く行えなかった。感染が弱まった時期に、一部の実験を実施できたが、計画通りとはいかなかった。それでも2020年度から取り組んできた代替的なオンラインでのデータ取得を一部行うことができ、わずかではあるがポジティブな兆しを感じ取ることもできた。オンラインでの測定が困難であった瞳孔径の測定については、写真を撮影し、瞳孔径を測定する代替的な手法を用い、対応をすることとした。ダイナミックな変化について残念ながら測定はできないが、仮説の検討を行うには足るデータを取得できると考える。感染症の感染拡大という計画時には全く予想もしなかった影響により、計画は遅れてはいるものの、少しずつその遅れを取り戻しつつあるところである。
|
今後の研究の推進方策 |
欧米の状況を見る限り、新型コロナウイルス感染症が完全に終息しなくとも、感染拡大前の状況に昨今は戻しているようである。本邦でも同様になるかはわからないが、少なくとも2020年、2021年と比べ、感染拡大に伴う制約は弱められていくのではないうかと予測する。感染拡大前と近い状況で対面での実験ができるようになれば、研究の遅れを取り戻すことができるであろう。また、2020年度より行っている代替的なオンラインでのデータ取得に2021年度は一部成功し、その成果を現在国際的な論文誌に投稿中である。写真を使った瞳孔径の測定は、準備段階のデータを2022年の5月に学会発表を行う予定である。研究計画を完全に代替できるわけではないが、一部については、オンラインや写真を用いて実施可能なものもある。新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着くまでは、それらを優先的に実施することとする。また、すでに国際的な論文誌に投稿し、現在審査を受けている研究成果もいくつかあり、今後、それらが公開されていくであろう。公表された成果については、facebook,twitterなどのSNSを通じ、広く一般に成果を伝える努力を惜しむことなくしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年、2021年と続く新型コロナウィルス感染症の感染拡大のため、計画通りに研究が実施できていないことが最も大きな理由である。また、予算の計画として、データ取得のための海外渡航や国際学会での発表にかかる旅費を計上したが、それらは現状執行できる目処が全く立っていない。研究が計画通りに実施できない以上、経費も計画通りに使うこともない。しかもそれが複数年に渡ったため、結果として予算を消化できず、次年度に繰り越すこととなった。感染拡大後に、できる限りの遅れを取り戻すべく邁進する所存である。
|