研究課題/領域番号 |
19K03389
|
研究機関 | 比治山大学 |
研究代表者 |
吉田 弘司 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (00243527)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 障害児 / 認知機能評価 / 発達支援 / ヒューマンセンシング |
研究実績の概要 |
最近の情報機器では,タッチセンサや視線センサ,身体センサなどのセンサ技術を応用したインタフェースが安価に利用できるようになってきた。これらの技術を有効に活用すれば,重症心身障害を含む多くの障害児から反応を引き出し,彼らの心理的な発達評価や訓練に応用することが可能になる。そこで,本研究は,認知心理学の知見と心理実験法のスキルをこれらの新しいセンサ技術と組み合わせることで,さまざまな障害をもつ子どもの認知機能を評価し,その発達やリハビリを支援するプログラムを開発することを目的として開始した。 研究においては,(a) 療育上必要となる基礎的な認知機能(知的機能を含む)を評価・訓練するための課題,(b) 注意や記憶,実行機能を評価・訓練する課題,(c) 身体イメージや視点取得といったより高次の認知機能を評価・訓練する課題,(d) 他者の視線や表情の認知といった社会的な認知機能を評価・訓練する課題の4つの観点からの課題を開発し,療育現場で実践することでその有効性を評価するとともに改良を施し,効果が期待されるものについては,Webページを介して成果を広く社会に還元する予定である。 研究初年度である2019年度は,(a) 身体運動に大きな制約をもつ重症心身障害児の療育の中で,子どもの言葉の理解を調べたり,意思疎通を図るため,視線によるコミュニケーションボードを誰でも容易に作成できるソフトウェアを開発し,2020年1月よりWebページで無料ダウンロードできるようにした。また,従来から開発している (b) 注意や記憶,実行機能等を評価する課題を視線によっても操作できるように移植作業を行いながら,(d) リアルタイムCGで動くソフトウェアロボットを試作し,視線(アイコンタクト)の知覚における個人差を評価する基礎研究を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度においては,画像ファイル名と音声ファイル名をテキストファイルに並べて書くだけで,プログラムが画面上に画像を並べて提示し,子どもがそれを見ると視線を検知して音声ファイルを読み上げるソフトウェアを開発した。これにより,療育現場において,子どもがどの程度ものの名前がわかっているかを調べるような検査課題を,母親を含む療育者が簡単に作成できるようになった。また,SMA(脊髄性筋萎縮症)により全身の筋肉が動かないため,発話はもちろん表情の表出もできない子どもが,養育者に対して,遊び活動の後に「楽しかった」などと感情を表現可能にする試みを行うなど,一定の成果をあげてきている。しかしながら,2020年に入って急激に流行を始めたCOVID-19により,ほとんどの療育施設が閉園となり,現時点(2020年5月)においても療育現場での実践はできない状況となっている。現場における研究活動については,今後の状況を見ながら対応していく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
COVID-19による影響のため,2020年度においては現場における実践の機会が減少することが予測されるが,その間に,まだ開発中で公開に至っていない注意や記憶,実行機能を評価・訓練する課題のブラッシュアップを行いながら,課題の認知機能評価に対する有効性を調べる基礎的な研究を行う予定である。また,2020年3月より,身体をとらえるセンサであるMicrosoft社の新しいKinectセンサ(Azure Kinect)が日本でも入手可能となったことから,身体イメージや視点取得など高次の認知機能を評価・訓練する課題の開発に着手するとともに,視線や表情の認知という社会的認知機能を調べるために開発中のソフトウェアロボットを使った基礎的な実験も行いながら,その現場応用の可能性を評価していく予定である。
|
備考 |
研究において開発した視線によって発話可能なコミュニケーションボードプログラムの公開
|