研究課題/領域番号 |
19K03390
|
研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
菱村 豊 広島国際大学, 健康科学部, 教授 (90293191)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | マウス / 皮膚温 / 超音波発声 |
研究実績の概要 |
マウスの非侵襲的情動テストバッテリーを開発することを目的として、社会的接触場面での表情(ビデオ解析)、皮膚温(赤外線サーモグラフィー)、超音波発声(高周波音専用マイクで録音した超音波発声のスペクトラム分析)の3つの指標を同時に20分間連続測定した。被験体には、一般的に利用される機会が多く相対的に視覚も良いと考えられる非アルビノの系統(C57BL/6N)と、雑種強勢による行動変化が期待されるハイブリッド系統(CD2F1)を使用した。各系統雌雄3匹ずつ計12匹を繰り返し実験に用いて、同系統同性、同系統異性、異系統同性、異系統異性の4パターンの社会的接触場面(被験体と刺激個体とは直接の接触はできないように仕切りで隔てられていた)を設定した。 解析の結果、雌同士の組み合わせが一番発声が多いことや、ハイブリッドのCD2F1はC57BL/6Nよりも発声が多いという新たな知見が得られたが、体温変動との関連は明確ではなく、さらに分析方法を変えるなどの工夫が必要である。また表情に関しては装置の問題や解像度の関係から、情動状態を判定できるデータとはならず、実験環境の更なる変更が必要であることが分かった。そのため、アクリルケースを用いた新たな実験装置を製作し、今後の実験で使用する予定である。今年度はコロナ感染症の影響から実験もデータ解析も十分に実施できず、計画は遅れ気味であった。そのため、研究期間の延長も視野に入れながらマウスを中心に新たな情動テストバッテリー開発の研究を継続する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度までで、表情記録用ビデオ撮影、連続的な皮膚温測定が可能な赤外線サーモグラフィー、超音波測定用マイク、およびそれらを入れる防音室の設置が終わり、それらを同時に記録する環境を整えた。その後、C57BL/6NとCD2F1の2系統のマウス12匹を用いて、72通りの組み合わせで社会的接触場面(被験体が10分前から入れられていたケージ内に、直接的な相互接触はできない刺激個体の入ったアリーナを入れる)で実験を行った。 データ解析の結果、他個体が提示されると超音波発声が増えること、雌同士の組み合わせで発声が多いこと、CD2F1はC57BL/6Nよりも発声が多いことなどが示された。しかし、体温変動との関連は明確ではなく、コロナ感染症の影響から解析は十分に行えていない。また表情変化による情動状態の測定にはかなりの高解像度の映像が必要であり、今回の映像データでは判定が難しいことが分かった。そのため、収集したデータを引き続き解析するとともに、あらたな実験装置の開発が必要と考えた。そこで今期終盤に、透明度の高いアクリルケースを用いた実験装置を新たに作成した。今後はこの装置を用いて表情データを含めた3指標による実験を継続する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては、まず測定したデータの解析を優先的に行う。その後は当初の予定通り、マウスについてさまざまな実験場面での3指標の測定を継続していく。具体的には、新しい実験装置を用いて、超音波発声が起きやすい社会的場面(同性または異性の提示、既知または未知の同性他個体提示、被験体より優位または劣位の同性他個体提示)、ポジティブ感情を生むと報告のあるヒトからのくすぐり刺激の提示、ネガティブ感情を生むという嫌悪刺激の提示(ただし先行研究で利用されている薬物とは異なり、学習心理学実験でよく用いられている塩化リチウムの腹腔内投与による内臓不快感)場面で実験を行うことを考えている。マウスの実験が終了したら、被験体をラット(非アルビノ系のLong-Evansなど)に変えて同様の実験を行いたいと考えている。ただし、研究が遅れていることも考慮し、来年度で終了予定の研究期間を1年延長することも視野に入れながら、今後研究を進めていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の影響もあり、実験とデータ解析とが十分に行えていない。また学科発表は国内、国外ともに実施できなかった。そのため、研究費の差額が生じた。研究計画の最終年度となる2021年度は遅れを取り戻すために研究を鋭意進めていくつもりであるが、研究機関の1年間延長も視野に研究を行っていく予定である。また、実験動物倫理委員会から使用済み動物の処分方法について、今後はジエチルエーテルではなく炭酸ガスを使用するよう指導があったため、急きょ炭酸ガス提示装置を導入する方針である。
|