研究実績の概要 |
事業申請書中の研究計画にしたがって, 今年度は、i) 専門学術誌での論文 1 "An explicit Shimura canonical model for the quaternion algebra of discriminant 6" , Hironori Shiga , RIMS Kokyuroku Bessatsu B77 127 - 140(2020) の発表, ii) シンポジウム講演 1 :"単純 K3 特異点から導かれる保型形式環の明示 " 志賀弘典, (永野中行氏との共同研究 ), 特異点セミナー, 2020年11月, を行った. このほかに, iii) 商業専門誌に研究概説記事 1 編, iv) 商業啓蒙誌に活動報告記事 1 編を発表した. さらに, v)プレプリント・サイトに 2 編の論文:"On Kummer-like surfaces attached to singularity and modular forms", by A, Nagano and H. Shiga, および "Geometric interpretation of Hermitian modular forms via Burkhardt invariants", by A. Nagano and H. Shiga, をアップロードしている.本プロジェクトの当初の研究計画書中の 1.3 項「具体的ターゲット, 戦略, 工程表」は、a), b), c) 三項目の柱からなっているが, a) は基本テーマに関わり、 b) はそれを、特殊状況に深化して展開するもので、c) は周辺領域に目を向けて戦線を拡大して研究を展開する, という性格を持っていた. 上記成果をこの工程表と対応させて述べてみる.i) はb) に分類される研究結果であり、 ii)およびv) は a) で唱われていた展望が具体化された成果である.iii)およびiv) はそれぞれ, 一般数学研究者向け,および一般市民向けに, 研究代表者の研究活動の内容を, それぞれの切り口で説明して周知するという目的のための寄稿である. v) の2 編の論文は専門学術雑誌に既に投稿中で、査読にかかっている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書 1.3 項「具体的ターゲット, 戦略, 工程表」は以下の a), b), c) 三項目の柱からなっている. (a) 単純 K3 特異点と呼ばれる 3 次元正規孤立特異点が 95 種存在し(米村崇による (1990))、こ の特異点自身が複素構造の変形を持ち, S. M. Bellcastro によってそのピカール格子が決定された (1997)。その格子構造中に有望なものを申請者はすでに発見しており、このような族から K3 保 型函数の構成をめざす. (b) Appell 型の超幾何微分方程式のシュワルツ写像(=周期写像)から 27 個の2変数保型函数が取り出せる, その幾つかに対しては保型函数のテータ表示が得られている. この方法を継続して新たな保型函数を得ることができる。すでに、この保型函数を用いて、数論的三角群(竹内喜佐雄が1977 に列挙)中の (3, 3, 5) 型三角群に対して志村の意味の正準保型函数を構成した. この手法を他の数論的三角群に適用できる. (c) Dvork pencil にモジュラー函数(文献 [4])は、依然として明示的な表示は得られていない. その困難さは、関連して現れる三角群が非数論的であるからと思われる. この非数論的三角群 は上半平面の直積 H2 にモジュラー的に埋蔵できるので, H2 上の K3 保型函数(すでに申請者が考察している)を通しじて解明できると予想される. 概要欄で述べたように a)b)項においては, 所期の結果は得られつつあり, c) に関しては予備的考察を積み上げている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の本欄の推進方策を発展させる形で述べる。 上記研究計画 1.3 項 (a)は当面の目標は達成された. (b) に関しては、(i) 米村による 3 次元特異点リスト、 (ii) 格子型 K3 曲面族、(iii) Batyrev による反映的凸体の理論および GKZ 型超幾何微分方程式が互いに交錯する対象から興味深い保形形式が導かれるので、この方向の研究を深化させる. すなわち、これまでの内外の先行研究では論じられていない、 K3 保型関数の数論的な明示的結果をめざすことが一つの目標となる. (c) に関しては, Candelas らが提示した Dwork pencil に関するモジュラー函数は, Batyrev の意味の 4 次元反映的凸体から導かれており, これを 5 次元以上に引き上げて考察することによって, より透徹した構造的考察が可能になる可能性がある. そこでは、周期写像は多変数の超幾何微分方程式で記述されているから, 微分方程式からの接近も可能ではないかと期待される.
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