研究課題/領域番号 |
19K03397
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 雄一郎 東京工業大学, 理学院, 教授 (90231399)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ガロア表現 / モジュライ / クムマー忠実 / 遠アーベル幾何学 / ドリンフェルト加群 / 代数体 / 函数体 |
研究実績の概要 |
2022年度に於いては、クムマー忠実体の分岐理論的特徴づけに関する研究(小関祥康氏との共同研究)をさらに発展させた。先の研究では、代数体K上の半アーベル多様体Aの等分点の群A[p^m]を(Aと素数pを動かしつつ)基礎体Kに添加した拡大のクムマー忠実性を証明したが、新しい研究では、さらに大きい拡大として、Mordell-Weil群A(K)のp^m倍写像による逆像を添加した体のクムマー忠実性を証明した(論文未発表)。さらに、この様な体上のMordell-Weil群は興味深い性質を持つ事も判明した。即ち、それを捻れ部分群で割った商は、無限階数(Qとテンソルしたものが無限次元)であり、可除部分群が自明であるが、自由アーベル群ではない。この様な性質を有する「ほどほどに大きい代数体」の例が発見されたのは初めてではないかと思われる。 さらに我々は、博士課程の学生である浅山拓哉氏と共同で、これらの結果の函数体類似を追求した。それは或る意味(クムマー忠実性の類似としての)「アルティン=シュライヤー忠実性」の概念にも通じる考察である。その過程で我々は、ドリンフェルト加群のモーデル=ヴェイユ群の可除性の研究に至った。これについて、或る程度の成果は得られており、例えば一つのドリンフェルト加群のP冪等分点(その冪は有限)の座標を、Pを全ての素イデアルに亘って動かして添加して得られる拡大体上のモーデル=ヴェイユ群の可徐部分は自明である。この結果は浅山氏により論文に纏められ、雑誌に投稿された。さらに、函数体の文脈では、Jardenらにより考察された様な、Kの分離閉包の、幾つかの自己同型で生成される正規部分群による固定部分体のクムマー忠実性を考察した。この文脈に於いては決定論的な結果は得られないが、確率論的な結果(ガロア群の直積の中の測度0の部分集合を除き成立する結果)が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調ではあるが、当初計画していた方向とは少しずれた方向に進展している。当初は函数体に対するSzpiro予想の定式化なども手掛けて、一定の成果が得られるのではないかと期待していたが、これは我々は追求せず、博士課程学生の黄茂洲氏の単独の研究により、或る程度進展している。一方、ほどほどに大きな代数体であって、アーベル多様体AのMordell-Weil群modulo捻れ部分群が、可除部分は自明だが自由アーベル群でない(即ち、大き過ぎもせず小さ過ぎもしない)様なもの、を構成するという課題は、それほど簡単には達成出来ないだろうと見込んでいたが、思いの外容易に達成出来た。
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今後の研究の推進方策 |
浅山氏との共同研究の第二段階に於いては、代数体のガロア拡大の分岐理論的性質よりもむしろ、ガロア群の群論的性質を用いたクムマー忠実性の判定法を模索して行く。既に小関氏との共同研究により、ガロア群がp進整数環上の射影特殊線型群と同型である場合等にはクムマー忠実である事が分かっているが、例えばこの事実の一般化を証明したい。 また、小関氏との共同研究で構成した「大きいクムマー忠実体」は、その上のアーベル多様体の捻れ部分群について、全体としては有限ではないが、各素数pについてのp-partは有限であつた。この事実の岩澤理論への応用を探したい。かつて久保氏との共同研究に於いて我々は、局所体上の良い還元を持つアーベル多様体Aについては、或る大きい代数拡大上のAの捻れ部分群が有限になる事を証明し、これを岩澤理論に応用した。これと類似の応用がクムマー忠実体の文脈でも証明出来れば大変興味深い。 クムマー忠実体を研究する動機は、遠アーベル幾何学が成立する様ななるべく大きい基礎体を探すといふ点に存する。その様な試みは様々になされつつあるが、私としては、局所体の絶対版遠アーベル幾何学に於いてこれを試みたい。そのオリジナル版は望月新一氏による1997年の結果であり、ガロア群の分岐フィルトレーションを考慮しないと成り立たない事は分かっている。これをどの程度、局所体のクムマー忠実な拡大体の場合に拡張出来るかを調べたい。この研究は(恐らくノルム体を介して)正標数の局所体の絶対版遠アーベル幾何学に繋がる。混標数の場合はガロア表現のHodge-Tate性の判定が一つの鍵であつたが、正標数の場合にはこの様な証明は知られていない。しかし正標数の局所体にはHodge-Pink構造の概念がある。これを応用して正標数の場合の証明を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、2020年度に計画していた国際研究集会が一年延期となり、それは2021年度に開催されたが、再びコロナ禍のためオンライン開催となった。そのため旅費の余剰金が大量に発生し、これを2022年度以降に順次使用している。幸い今年度に入り感染拡大が下火になり出張がし易くなったため、研究計画の遅れを取り戻すべく積極的な出張計画を立て、旅費として有効に使用する計画である。
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