研究課題/領域番号 |
19K03402
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上岡 修平 京都大学, 情報学研究科, 助教 (70543297)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 平面分割 / 数え上げ組合せ論 / 直交多項式 / 可積分系 |
研究実績の概要 |
逆平面分割は「よい母関数」を持つ組合せ論的オブジェクトである.ここでよい母関数とは積の形に表すことができる母関数(分配関数)のことである.本研究の主目的は,逆平面分割に対して未知のよい母関数を新しく見つけることである.よい母関数を具体的に構成するために,本研究では直交多項式や可積分系を利用する. 本研究の初年度にあたる令和元年度には,双直交多項式の族やそれに付随する離散可積分系の解を用いることにより,通常の逆平面分割に対するよい母関数の具体例をつくった.本研究では双直交多項式の族や離散2次元戸田分子などの可積分系の解から,逆平面分割のウェイトと,そのウェイトから決まる母関数(分配関数)の積表示を同時に求める.本研究代表者は先行研究において,そのための雛形となるべき一般公式をすでに導出している.そこで本研究では,古典直交多項式の族のひとつであるlittle q-Jacobi多項式,およびそれに付随する離散2次元戸田分子の特殊解を雛形の公式に対して当てはめることにより,逆平面分割に対するよい母関数を構成した.この母関数は,逆平面分割の研究の端緒となったMacMahon母関数の一般化であり,同時に最も基本的な母関数のひとつであるトレース母関数の精密化でもある.また本研究代表者が,古典直交多項式の族のひとつであるlittle q-Laguerre多項式から求めた母関数を,パラメータの特殊化として含んでいる.このように本研究で新たに求めたよい母関数は,既存の重要な母関数を拡張する意義あるものである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度にあたる令和元年度の当初計画では次の点を実施することを予定していた. ・「通常の逆平面分割のよい母関数」の具体例の計算:双直交多項式の族または離散2次元戸田方程式の解から,逆平面分割に対するウェイトとそれに対応する母関数の積表示を同時に求めることにより,逆平面分割のよい母関数を構成する.そのために先行研究で導出した雛形の一般公式を用いる.本研究では,双直交多項式のいろいろな族や離散2次元戸田方程式の様々な特殊解を雛形に代入することにより「よい母関数」の新しい具体例をつくる.元となる多項式族や解としては,古典直交多項式に分類されるAskey-Wilson多項式などを用いる. 本研究で用いたlittle q-Jacobi多項式は,Askey-Wilson多項式と同じく古典直交多項式に分類される.本研究ではこのlittle q-Jacobi多項式を基にして,逆平面分割に対するよい母関数を具体的につくることに成功した.結果として得られた母関数は,既存の重要な母関数を一般化・精密化する意義あるものである.また準備段階ではあるが,本研究において用いた手法は,より多くのパラメータを含むAskey-Wilson多項式に対しても有効であることも確認している.このことから本研究の初年度における当初計画はおおむね達成できており,本研究は順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降は下記4点を実施する. (1)「通常の逆平面分割のよい母関数」の具体例の計算(R2年度):初年度の研究をさらに進めて,Askey-Wilson多項式およびそれを独自に拡張した多項式から,よい母関数の具体例をつくる. (2)「対称な逆平面分割のよい母関数」の構成法の直交多項式・可積分系による定式化(R2-3年度):対称な逆平面分割に対して,通常の逆平面分割と同様の「よい母関数」の雛形となるべき公式をつくる.対称な逆平面分割の母関数はパフィアンで書き下せるものが主である.そのため定式化の際には,歪直交多項式(skew orthogonal polynomials)などパフィアンに関連する直交多項式や,パフィアン解を持つ可積分系を用いる. (3)「対称な逆平面分割のよい母関数」の具体例の計算(R2-3年度):(2)でつくった雛形を用いて「対称な逆平面分割のよい母関数」の具体例を求める.元となる直交多項式の族や可積分系の解としては,古典直交多項式の歪類似などを用いる.また研究代表者の先行研究において予想段階ながらよい母関数の具体例が見つかっているので,その母関数を一般化することによりさらに新しい母関数をつくる. (4)新しい直交多項式の詳しい解析(R5年度まで必要に応じて随時):(1)や(3)において未知の新しい直交多項式が現れた場合その性質を詳しく調べる.特に古典直交多項式やその歪類似を拡張して得られるものに対しては,元々あったよい性質(明示公式,直交関係式,微分・差分方程式による特徴付け,上昇・下降演算子の存在など)を保っているかどうか重点的に調べる.その過程でさらに新しい直交多項式が見つかった場合には,その成果を(1)や(3)にフィードバックしてよい母関数のさらなる発見につなげる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(120,390円)が生じた理由は,新型コロナウイルス感染症の蔓延によるものである.これにより参加を予定していた3月開催予定であった研究集会および学会(日本応用数理学会第16回研究部会連合発表会,日本数学会2020年度年会,等)がすべて中止となったため,そのために計上していた旅費を次年度以降に振り替えることとした. 翌年度には当初,物品費(研究に用いる計算機関連の消耗品,関連分野の図書等の購入)に100,000円,国内外の旅費(成果発表,関連分野の情報収集,研究打合せ等)に400,000円の計500,000円を請求していた.上記の通り旅費として計上していた次年度使用額分120,390円は,この国内外の旅費に加算して使用する.
|