研究課題/領域番号 |
19K03403
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
安部 利之 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30380215)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 頂点作用素代数 / 有限群 / 指標 / ムーンシャイン頂点作用素代数 |
研究実績の概要 |
本年度は有限群の予想の一つである原田予想とこれまでの継続にあたる頂点作用素代数のコミュタントに関する予想の解決に取り組んだ.得られた成果は次の2点である. (1) 原田予想は既約指標と共役類の関係を表す予想であるが, 群環の共役和からなる基底を選び, それらで生成される整格子のグラム行列を考えたとき, 原田予想が成立することとと, そのグラム行列式が共役類の代表の中心加群の位数のすべての積を割り切ることが同値であることしめしたことがわかった. 以上の考察は新規の発見であり, しかも表現と群の構造の間の予想である原田予想の解決に, 群の構造のみで解決できることを示唆している. その点で予想の解決に大きな進展を与えたと考えている. (2) 頂点作用素代数 V のコミュタントの分解に関し,頂点作用素代数内にその演算(頂点作用素)を制限した V-internal intertwining 作用素, そして対応する V-internal fusion 則, V-internal fusion 積という概念を導入した.その概念に関し, V が強正則と呼ばれる性質を持つ部分頂点作用素代数 U をもつとき, V は U とそのコミュタント U^c のテンソル積の加群に分解するが, Vに現れる U-加群とU^c-加群いずれに対しても, このfusion 積は結合積を満たすことがわかった. 一方で, V-internal intertwining 作用素の概念を有限自己同型群の固定点部分代数(オービフォールド模型)に適用すると, 頂点作用素代数に現れるオービフォールド模型の既約加群と有限群の既約加群のテンソル積の直和に分解するが, オービフォールド模型の既約加群の V-internal fusion 則と対応する群の既約加群の分規則が一致することもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原田予想の解決について, これまで既約次数と共役類の位数を同時に考える必要があり, 具体例で考察する際には既約加群の情報と群の共役類の情報両方を考えなければならなかった. しかし, 今回の成果により, 少なくとも原田予想の解決には群の構造を綿密に調べることだけで解決できることが分かった点で予想していなかった方向への進展となった. しかも考えている対象が基本的なものであるので, どのような構造が原田予想に寄与しているか, そして表現との関連は何かについて, 取り組むべき狙いを絞ることができた. 一方で更に考察を進めると, 原田予想単独ではなく, 原田予想の一般化も本質的に必要になってくるのではないかと考え始めている.これについては更に考察が必要である. 頂点作用素代数 V のコミュタントの C_2-有限性を示す際に宮本氏によって導入された internal intertwining operator という概念が有用ではないかと考察を深めたが, 予想の解決には至らなかった. 一方でこの internal intertwining operator は頂点作用素代数の構造をより強く反映した intertwining operator であるため, 何らかの機構が働いていて C_2有限性に寄与していると考えている. その点に関し, さらなる研究が必要である. 一方でオービフォールド模型に関する成果はオービフォールド模型に理論における internal intertwining operator の有用性を示しているもと考えられるが, これについても現在のところ V 内にとどまる成果のみであるので, V-加群や twisted 加群も視野におき研究を進めたい.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は原田予想に関し更に考察を進めつつ, 頂点作用素代数の自己同型群の研究も始める. 原田予想に関しては,前年度の成果を用いて, 非自明な中心を持つ場合について現在考察中である. そこでは有限群の中心拡大に関する予想の一般化を仮定すれば, まとまった成果になりそうではあるが, 中心拡大を含めた原田予想一般化について更に研究を進めたいと考えている. この一般化は半直積の場合にもどうなるか考察を深めたいと考えているが現在のところは中心拡大に関する研究の進展に依存しているため明確な見通しは立てていない.頂点作用素代数の予想に関しては, 研究目的にはなかったコミュタントのC_2有限性をひとまず考察したいと考えている. 昨年度, 宮本氏とLam氏との共同研究により研究を進めていたが途中に困難な点があり,予想の解決には至っていない. ただ V-internal intertwining operator の考え方そのものは非常に基本的であり, 有用であると考えているので, その考え方のもとで, 困難な点を克服したいと考えているからである. 宮本氏のアイデアは, 直接適用は難しいがその本質的な部分を更に精査し適用できないかと考えている. 頂点作用素代数の自己同型群に関する予想については, 前年度の研究課程で多くの有限群の構造に関することを学んだのでその手法が適用できないかと考えている. 特に, 重み 1の空間からくる(内部)自己同型による全自己同型群の有限性がいつ成り立つのかについて, 頂点作用素代数の構造との関連を詳しく調べていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進み具合から、多くの具体例を扱う前に比較的成果が進展したため、具体例で考えるために当初購入予定であったMAGMA の購入を見合わせた。また年度末に起きた新型コロナウイルスの感染拡大防止のため数学会年会をはじめとする研究集会が中止となった。そのため旅費として使用できなかった。
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