研究実績の概要 |
コンパクトでスムースな代数多様体Xと正規交叉因子の対H, Yに対し, Hodge複体L(X-Y;H)であって, 次の性質を満たすものを構成した. 一般にHodge複体Lは,Q-部分(フィルターづけをもつQ上の複体)と C-部分(2つのフィルターづけをもつC上の複体)およびその間の比較同型からなり,そのコホモロジーHodge構造を与える構造物である. これはDeligneのHodge理論をBeilinsonがさらに精密化して与えた概念であり, Deligne コホモロジーとの関連において重要な役割を持つ. (a) L(X-Y;H)のQ-部分は, 空間の3つ組(X, Y; H)上の位相的なチェインのなす複体である. (b) L(X-Y;H)のC-部分は, XおよびY, Hの上のカレントの複体と,その間の自然な包含射,制限射を用いて記述され, ウェイトフィルターづけが自然に与えられる.(c) L(X-Y;H)は空間対(X-Y, H-Y)のコホモロジーHodge構造を与える. (これをホモロジー的なHodge複体と呼ぶ.) 他方でDeligne-Beilinsonの構成した「抽象的」Hodge複体はやはり空間対 (X-Y, H-Y)のコホモロジーのHodge構造を与えるが,条件(a), (b)を満たさないことに注意する. それに対してL(X-Y;H)は明示的な対象であり,従って原理的にはそれを用いた計算が可能である. このL(X-Y;H)についてさらに次が示された. (d) Deligne-BeilinsonのHodge複体とL(X-Y;H)の間にHodge複体としての同型が存在する. このために, (1)Yが空の場合,(2)Hが空の場合のそれぞれの場合にHodge複体の構成を行い,(d)の事実を示した.一般の場合はこれらの場合を統合して結果が得られた.
|
今後の研究の推進方策 |
1. 微分形式の複体のenhancement(強化)という概念を発展させその理論を完成する.具体的には,代数多様体の有限個の部分多様体を与えたとき,それらの微分形式の複体からのGysin写像を許容し,それ以外は通常の微分形式と同様に振る舞う複体を構成する.また「強化された複体」の関手的振る舞いを調べる. 2. これを用いて,複体L(X-Y;H)の関手性を確立する.具体的には3つ組(X, Y; H)に対する空間対(X-Y, H-Y)のコホモロジーの反変または共変関手性を持つ場合に,それをHodge複体のレベルに持ち上げるということである. 3. 一般論に従うと,Hodge複体が与えられると対応していわゆるDeligneコホモロジーを計算する複体が得られる.我々の 複体L(X-Y;H)にこれを適用して,空間対(X-Y, H-Y)のDeligneコホモロジーを考察する.特に曲面の場合に具体的に計算する. 4. すでに得られている構成を拡張し,スムースと限らない任意の代数多様体X,また部分多様体Y, Hに対して,Hodge複体L(X-Y;H)であって空間対(X-Y, H-Y)のコホモロジーを与えるものを構成する.そのためには,DeligneのHodge理論におけるsimplicial resolutionの技法を適切に改変をして用いる.
|