研究実績の概要 |
\mathfrak{g} を A_{n} 型の有限次元単純リー代数とする. すなわち, \mathfrak{g} = \mathfrak{sl}_{n+1} (n+1 次の特殊線形リー代数) であり, そのワイル群は n+1 次対称群 S_{n+1} と同型である. Cristian Lenart と前野俊昭 (2006) は, A_{n} 型の旗多様体 Fl_{n+1} の量子K-群 QK(Fl_{n+1}) について,多項式環の剰余環としての具体的な記述を与えた. さらに, この記述のもとで, 量子 Grothendieck 多項式が Schubert 多様体の構造層のクラス (\in QK(Fl_{n+1}) を代表することを予想した. この予想は, Lenart 氏, 内藤聡氏との共同研究 (arXiv:2010.06143) において, すでに証明している. さらに, Lenart と前野は, 同論文において,ある巡回置換に対応する量子 Grothendieck 多項式と, 一般の元に対応する量子 Grothendieck 多項式の積を, 量子 Grothendieck 多項式の線形結合で展開する (Pieri 鎖を用いた) 組み合わせ論的な公式を予想した. 2022年度は, 内藤聡氏との共同研究で, 長年未解決だったこの予想を肯定的に解決した. これらの研究成果は, 申請書類の「研究目的」における「(3) 本研究で何をどのように, どこまで明らかにしようとするのか」に (v) として記載した課題に対する完全な解答であり, 当研究において非常に重要な進展である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度までの研究成果により, 「(3) 本研究で何をどのように, どこまで明らかにしようとするのか」に記載した課題 (i) ~ (v) のうち,後述の (iii) 以外は解決したことになる. また, (v) の解決は (iii) の解決への手がかりにもなる. コロナ禍の影響による遅れはあるものの, 順調に研究が進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
\mathfrak{g} を一般の有限次元単純リー代数とし, W をそのワイル群とする. W_{\mathrm{af}} を対応するアフィン・ワイル群とし, 半無限 Bruhat 順序に関して単位元以上であるようなアフィン・ワイル群の元全体の集合を W_{\mathrm{af}}^{\ge 0} とする. x \in W_{\mathrm{af}}^{\ge 0} に対して, \mathcal{O}_{\mathbf{Q}_{G}}(x) を対応する半無限 Schubert 多様体とし, [\mathcal{O}_{\mathbf{Q}_{G}}(x)] をその構造層のクラスとする. 2023年度は残っている次の課題 (iii) に取り組む. すなわち, 一般の x,y \in W_{af} に対して, 積 [\mathcal{O}_{\mathbf{Q}_{G}}(x)] \otimes [\mathcal{O}_{\mathbf{Q}_{G}}(y)] が定義されることを確認し, その展開公式を組み合わせ論的かつ明示的に与える.
2022年度に解決した (v) は, この課題の特別な場合である; \mathfrak{g} が A_{n} 型で, かつ, x が巡回置換 (p,p+1,....,k-1,k) (1 \le p < k \le n+1) の場合. 2022年度の結果を手がかりにして, より一般の場合の公式の導出を目指す. また, 必要に応じて Sage などのソフトウェアを用いた具体例の計算も行う.
|