研究課題/領域番号 |
19K03421
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
松本 拓也 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (50748803)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 2次元共形場理論 / 拡大W代数 / 自由場表示 / ジャック多項式 |
研究実績の概要 |
2020年度は前年度に引き続き、2次元共形場理論に関する基礎的研究を行った。一般に、代数とその加群の構造を調べる際には、加群間の準同型写像を用いることが有効である。2次元共形場理論を特徴づけるヴィラソロ代数の表現として、ボソンによるフォック表現を考えた場合、これと可換な演算子は「スクリーニング作用素」と呼ばれる。 本研究では、このスクリーニング演算子の性質を精密に調べることによって、場の量子論と量子群の関係の一例を、明示的に構成することを目指している。 具体的には、正の有理レベルにおける拡大W代数に関する研究を行った。これはヴィラソロ代数を部分代数として含む無限次元代数であり、その加群は、いわゆるBPZ(Belavin, Polyakov, Zamolodchikov)のヴィラソロミニマル模型の半単純でない表現への拡張になっている。 これまでの先行研究[Mimachi-Yamada(Comm. Math. Phys.Volume 174, Number 2 (1995), 447-455.), Tsuchiya-Wood(arXiv:1302.6435 [math.QA])]から、これらの特異ベクトルの具体的表示は、自由場表示によって1パラメータをもつジャック多項式によって与えられる事が知られていたが、今回、対応する場の演算子の明示式を得たので、論文にまとめ``Mathematics Journal of Toyama University”に投稿した。現在査読中である。これは、2020年2月15日(土)~2020年2月18日(火)に富山大学理学部で開催された研究会“The 2nd Meeting for Study of Number theory, Hopf algebras and related topics”における口頭発表に基づくもとである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画全体から見ると、進捗状況はやや遅れていると考えている。このプロジェクトの目的は、2次元共形場理論と1次元ハバード模型の関係を、両者の対称性として現れると期待される量子群の観点から明らかにすることであるが、まだその量子群対称性の具体的構成には至っていない。 期待としては、正の有利レベルにおける共形場理論に関係する量子群は、いわゆるLusztigの「大きな量子群」であると考えられる。 この予想を確かめるには、この「大きな量子群」に本質的である演算子(これを「フロベニウス演算子」と呼んでいる)を、スクリーニング作用素をボソンの自由場表示を用いて具体的に構成することが重要である。そのために、スクリーニングの構造を丁寧に観察してきたが、今回論文にまとめた特異ベクトルの場の演算子としての明示式は、その副産物である。 基本的に、スクリーニング作用素とヴィラソロ代数との可換性については、その積分表示[Tuchiya-Kanie (Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences, 1986, 22 巻, 2 号, p. 259-327)]から従うが、スクリーニング作用素としてのフロベニウス演算子の自由場表示を求めるうえでは、積分表示に頼らず、スクリーニング作用素のヴィラソロ演算子との可換性、およびその冪ゼロ性を明示的に確認する必要があると考えている。よって、今年度はこの2つの問題にも取り組んできた。その結果、いくつかの非自明な例では、整合的な結果を得たことは前進であるが、一般的な証明はまだ出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
大きな目標としては、拡大W代数の加群に作用するLusztigの「大きな量子群」、特にそれに特徴的な「フロベニウス演算子」を構成することにあるが、「現在までの進捗状況」で述べたようにまず次の2点を確認したい。(i) 積分表示によらずスクリーニング作用素のヴィラソロ代数との可換性を示す。(ii) スクリーニング作用素の冪ゼロ性を示す。 (i)については、積分表示はヴィラソロ代数との可換性を示す非常にうまい方法であるが、その積分表示を用いて、スクリーニング作用素同士の交換関係を記述することは容易ではない。よって、ジャック多項式の理論を援用するなどして、直接証明を試みたい。 (ii)これに関しては、Felderによる証明があるが、それはヴィラソロ代数の表現論を用いたものであり、直接の証明は知られていないようである。大きな量子群に現れる「フロベニウス演算子」を構成するには、まず冪ゼロ性を示したのち、それを1変数変形によって離散変数環上に持ち上げることによって、ある種の正則化を行うことが有効であると考えられる。 その先の展開として、フロベニウス作用素の明示式から再び積分表示を反省し、捻じれde Raham理論の枠組みの中で、超幾何関数との関連も議論することを目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の場合、助成金の主な使途は旅費であるが、2020年度は多くの国内外の研究会が中止となったこと、また自分自身も参加を自粛したことなどから、次年度使用額が生じた。次年度は、本研究と関係の深い研究会に参加し、情報収集に努め、研究発表も行っていきたいと考えている。
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