研究課題/領域番号 |
19K03422
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲場 道明 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80359934)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モジュライ / 接続 / 一般モノドロミー保存変形 / シンプレクティイク形式 |
研究実績の概要 |
分解分岐構造をもつ接続のモジュライ空間と一般モノドロミー保存変形の研究については、今年度は査読審査を受け、標準2形式が閉形式となることの証明を補完するなどの修正を経て出版することができた。 Biswas氏, 光明氏、齋藤政彦氏と共同で、frame付対数的接続のモジュライ空間上のシンプレクティック構造の構成と、対数的放物接続のモジュライ空間上の大域代数関数の超越次数の上からの評価についての研究をしてきた。今年度の終わり頃に論文を完成させ、現在は論文を投稿中の段階に至った。Simpsonの非可換Hodge対応により、対数的放物接続は対数的放物Higgs束と対応し、これはフィルター付き局所系とも対応する。しかしこれらのモジュライ空間の代数多様体としての構造は大きく異なる。この論文では、接続のモジュライ空間上の大域代数関数の環の超越次数をHiggs束の場合の超越次数で抑えることにより、局所系のモジュライ空間とは代数多様体として異なることを帰結した。証明の鍵となったのは、対数的接続のモジュライ空間から対数的Higgs束のモジュライ空間への退化を、(歪めた意味での)コンパクト化の族と同時に構成したことにある。実際にこの議論が適用可能にするためには、下部放物ベクトル束がsimpleでない部分の余次元の評価をする必要があり、膨大な詳細議論を要した。この論文の前半のシンプレクティック構造に関しては、今年度Biswas氏と直接会って議論できたことから大きく進展した部分があり、モジュライ空間の既約性を通さずに閉形式であることを示せた。また、接続のモジュライ空間上のPoisson構造を構成し、対数的放物接続のモジュライから対数的接続のモジュライへの射がPoisson写像になること、留数固有値を固定した部分で特異点解消を誘導することが判明し、全体像がより明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分岐接続のモジュライと一般モノドロミー保存変形を構成した論文を出版できたので、見た目の成果ははっきり得られた。今年度は既に論文審査の段階だったが、その際、標準2形式が閉形式となることの証明を精密にし直す必要が生じた。結果的には普遍族の水平持ち上げを用いて各積分多様体上に接続の一般モノドロミー保存変形が導かれることを発見でき、証明のギャップを埋めることに繋がった。普遍族の水平持ち上げという概念が一般モノドロミー保存変形の研究における重要な役割を果たしていることを理解できた点も成果の一つと言える。 Biswas氏、光明氏、齋藤氏との共著論文を完成させ、投稿中の段階にできたのも大きな成果と言える。今年度はBiswas氏と直接会って議論することができ、論文中のいくつかの定理を改良できた。frame付接続のモジュライ空間上で定義されるシンプレクティイク形式について、閉形式であることをモジュライ空間の既約性に直接依存しない形で証明することにより、定理をより一般的な形で述べることができた。これを用いて、設定の少し異なる種々の接続のモジュライ空間上にPoisson構造を構成することもできた。共同研究者に直接会って議論できることに大きな意義があることを強く実感した。 光明氏と射影直線上階数2で極因子の次数が4の場合の接続のモジュライ空間のコンパクト化を構成する研究も継続させた。これについては光明氏が独自のアイデアを打ち出してかなりの計算を進め、コンパクト化の描像は概ね得ることができた。まだ理論の完成には至っていないが、たたき台となる原稿はかなりの内容に至っている。 以上を踏まえると、今までの研究の蓄積を形にする一方で、これから発展させる進行中の研究も進んでいるため、本研究課題は概ね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
古典パンルべ方程式の初期値空間に対応する、射影直線上で次数4の因子に極をもつ有理接続のモジュライ空間のコンパクト化をモジュライ理論的に構成する研究を、光明氏と共同で進めており、今年度は特にこの研究の完成を目指すことに全力を注ぎたい。対数的接続の場合は、岩崎氏と齋藤氏との共同研究において、φ接続のモジュライ空間を導入することにより、非特異コンパクト化を実現し、坂井氏によるパンルべ方程式の初期値空間のコンパクト化の分類における有理曲面と同型となることを示していた。不分岐不確定の場合は、宮崎氏による放物構造の精密化により、コンパクト化を構成する道筋が提示されていた。しかし分岐不確定特異点を含む場合は放物構造を用いるアイデアは全く通用しない。そこで、分岐接続のモジュライ空間の一般論で導入した分岐構造あるいは分解分岐構造をヒントに定式化ができないか考えた。φ接続の場合に拡張するのに困難があったが、光明氏のアイデアによって、frame構造をある種のHomの空間の部分加群のデータで実現し、定式化の困難を克服した。残りは安定性の議論による対象の絞り込みの議論を完成させることと、ブローアップに対応する部分に適切な議論を適用することによって、坂井の分類に現れる有理曲面との同型を示したい。WKB解析のアイデアに現れるパラメーターの導入で、Higgs束のモジュライ空間のコンパクト化も同時に構成できる見込みで、そちらは有理的楕円曲面となる。 Biswas氏との共同研究ではGL束に入る接続に関して論文を完成させたが、これを半単純群Gに構造を持つ主G束に入る接続の場合に拡張する研究も提案されている。これについてはTata研究所の若手研究者と交流できる機会になる可能性もある。 接続のモジュライ空間上の標準2形式について、他研究者による定式化との比較も非自明な問題で、時間に余裕があれば取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
特に年度の前半はコロナ禍による制限が依然として厳しかったために、企画していた城崎シンポジウムもオンライン開催の形となり、シンポジウムそのものは大変有意義なものにできたが、旅費等による科研費支出はできなかった。各種研究集会が少しずつ復活はしたものの、コロナ前のような多くの科研費使用はできず、大部分を次年度使用に回すこととなった。 4月から5月中旬にかけて(正確には3月終わり頃から)、トリノ工科大学のPons Llopis氏を京大数学教室に招聘して有益な研究交流を行い、その航空旅費を当該科研費から支出する手続きを既に済ませている。また、5月後半に千葉大学の廣惠氏を招聘し、セミナー講演をしてもらうと同時に、当該研究課題に深くかかわる研究の打ち合わせをして理解を深め合う計画を立てている。その他にも対面の研究集会が多く復活する見込みであることから、次年度は当該研究課題遂行のために、科研費の大幅な使用増となる予定である。
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