極小モデル理論における重要な問題の一つであるフリップの終止性は,極小対数的食違い係数と呼ばれる特異点の不変量についての昇鎖律と下半連続性に還元されている.そのうち昇鎖律は3次元でも未解決であり,3次元極小モデル理論で残された大きな課題となっている.私は研究期間全体を通じて,3次元極小対数的食違い係数の昇鎖律を,これまでの3次元双有理幾何の明示的研究と関連させて研究してきた.それによって極小対数的食違い係数を計算する因子の様子が少しずつ分かってきた. 最終年度の研究成果は,3次元の昇鎖律を非特異な3次元多様体上で完成させたことである.一般に非特異多様体上の極小対数的食違い係数の昇鎖律は,係数を計算する因子の多様体自身に関する食違い係数の有界性と同値になる.3次元の場合,これまでの私の研究によって,境界が標準特異点を定めるイデアルと極大イデアルのべきの積に分解する状況が残されていた.その状況では,3次元標準特異点の極小対数的食違い係数1を計算する因子の解明が鍵になる. そのような因子は3次元因子収縮写像の合成によって得られ,因子収縮写像は重み付き爆発であることが私の研究によって知られている.私は今回,それら因子収縮写像の合成が依然として重み付き爆発で実現される状況に持ち込むことに成功した.これによって曲線に沿って対数的標準特異点を持つ場合に退化させることが可能となり,極小対数的食違い係数の既存の下半連続性と逆同伴を経由して,最終的に曲面上の昇鎖律に帰着させたのである.
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