研究実績の概要 |
本年度は正標数の基本的な不変量であるヒルベルト・クンツ重複度に関する一連の研究を整理し,ヒルベルト・クンツ重複度を用いた正標数の正則局所環の特徴づけから始まる,重複度に対して極小なヒルベルト・クンツ重複度を持つ清純な局所環の構造に関する研究成果,渡辺・吉田予想に対する成果などを整理した。さらに,昨年度の主要な研究であるF指数に関する上限予想などを織り交ぜて多くの予想と共に,インドのオンラインセミナーで発表し,海外の若手研究者の今後の研究の指標を与えた。 一方,本研究者は渡辺敬一氏,奥間智弘氏らとpgイデアルの次に研究すべき対象として, 強楕円型イデアルの理論を生み出し,正規還元種数に関する興味深い例を提供することに成功した。実際,2次元の正規局所環において,べきがある程度まで整閉であるが,2つの正規還元種数が異なる例を初めて提供できたと考えている。また, この例は楕円型イデアルの特徴づけにおいて, 2つの正規還元種数が一致することが必要なことを示す例を提供するなど, 既存の理論を整閉イデアルの理論に移行する際には必ず考慮すべき問題であることが分かった。現在はさらに幾何的な考察を深めることにより, 同種の例を多く提供すべき努力をしているが, ある種の消滅定理の拡張が必要になることが明らかになり, 議論を深めるためには代数幾何学(特に,特異点論)からの準備が必要である。また,楕円型特異点を環論的に特徴づける方法への手がかりとして, 楕円型イデアルの理論を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究集会に参加し,多くの人と議論をする機会には恵まれなかったが,20年前からの一連の研究成果を整理し, 発表することに恵まれ,若手研究者にも予想を提供することができた。また,代数幾何学(特に, 特異点論)の応用により, 計算が難しいイデアルのべきの整閉性についても多くの知見を得ることができた。
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