研究課題/領域番号 |
19K03437
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 泰生 東北大学, 理学研究科, 教授 (70330230)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 |
研究実績の概要 |
Arakawa-Kaneko型多重ゼータ関数の特殊値の満たす和公式の究明を行い、報告者自身の期待の通り、等号付き多重ゼータ値との結びつきを示す公式を得た。この公式は超幾何関数の接続公式から証明することができ、超幾何関数と多重ゼータ値の深淵なる関係解明という当該課題のまさに本流となる研究成果を得たと言える。 更に2019年度後半に、日本学術振興会の外国人招へい研究者として報告者が申請し、採択され来日したWadim Zudilin教授と、この研究を一段と深める議論を行い、一般超幾何関数の当該接続公式において、意味を持って有効に使えるパラメータの自由度の特定など一定の成果を得た。 このほか、Komatsuとの共同でBernoulli数とEuler数の一般化であるLehmer数の、分母分子が満たす一般的な合同関係式を導出しそれを主題とする論文を投稿した。ここでLehmer数とは、1の3乗根を用いたBernoulli数の拡張であり、同様に2乗根を用いた場合がEuler数になる構成的にも歴史的にも極めて自然かつ存在意義の高い対象である。 Arakawa-Kanekoのゼータ関数は、Riemannゼータ関数の積分表示において、被積分関数をpolylog関数を用いて拡張することによって定義される、Rimannゼータ関数の一般化のひとつであり、現在この関数とその近縁にあたる関数(総称してArakawa-Kaneko型と呼ぶ)の研究が目覚ましい勢いで進展している。これらの関数はすべてRiemannゼータ関数のpolylog方面への拡張であり、所謂$s$と$n-s$の間の関数等式は未解明であるものの、多様な数学的/物理学的対象と繋がっており対称性にも著しく優れている。この特殊値の性質の究明は、多重ゼータ値の関係式とその背後にある超幾何関数/保形形式論との繋がりを詳らかにする重要な研究課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多重ゼータ値と超幾何関数の深い関わりの系統的究明を中心課題としている。Arakawa-Kaneko型ゼータ関数を軸として研究を行っているが、この理由はこれまでに報告者がこの関数において複数の研究成果を挙げており情報に詳しいことだけでなく、報告者の視点からは、この関数族が多重ゼータ値、超幾何関数、多重ベルヌーイ数という三者の交叉点に見えているからにほかならない。先に述べたように、この関数族はRiemannゼータ関数のpolylog方面への自然な一般化であり、現在盛んに脚光を浴びているがそれでも足りないと思えるほど重要な題材である。これらの特殊値に現れる多重ゼータ値とその拡張、あるいは多重Bernoulli数とその多項式化などの拡張は、非常に興味深く、いままさに研究すべき対象となっている。今回の研究では、この関数族の起源となった関数であるArakawa-Kanekoのゼータ関数の、特殊値の満たす和公式を等号付き多重ゼータ値を用いて記述したものである。さらにこの関係の背後には一般超幾何関数の接続公式が存在していることも解明できている。今後このほかのArakawa-Kaneko型ゼータ関数や多重Bernoulli数/多項式に同様の性質が拡大・一般化されることも十分に期待される。 また、2019年度後半に3週間ほど報告者の元へ来日した、オランダ・ナイメーヘン大学のWadim Zudilin教授と報告者は、過去に2報の共著論文を書いている気ごころの知れた関係であり、超幾何関数を用いた多重ゼータ値の関係式証明についてもこれまでの情報を共有している。上述の研究についてZudilin教授と議論を深め、背後にある一般超幾何関数について、"当該研究において意味のある"パラメータの自由度を捉えることを第一段階として行った。今後この自由度を用いて系統的な関係解明を行うため、土台となる結果である。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、今回の中心的成果は当該研究課題の本流に位置する礎石である。これを基として、既に述べた3つの方向性のみならずあらゆる方向への展開を試みる計画である。特に、他のArakawa-Kaneko型ゼータ関数において類似の現象を捉えることと、すでにZudilin氏とも議論を重ねている超幾何関数側の視点でのパラメータの自由度を用いた今回の成果の拡張の可能性を捉えることに力を割きたいと考えている。 他のArakawa-Kaneko型ゼータ関数としては、Kaneko-Tsumuraのゼータ関数や、Ohno-Wayamaによる多項式補間されたゼータ関数が、最初の対象となる。これらにおける超幾何関数を背景とする和公式の構成について、母関数の計算と数値実験も兼ねつつ究明を図りたい。Kaneko-Tsumura氏による特殊値記述の公式や、Ohno-Wayamaによる補間関数の特殊値(多項式)の公式、そしてYamamoto氏による補間ゼータ関数の豊かな性質の解明などが、ここで有効な材料になると期待できる。 一般超幾何関数の側からの関係解明というアプローチにおいては、一般超幾何関数の接続公式のもつ多くの情報を十分に活用することが強く求められると考えている。このことについては、Yamamoto氏やZudilin氏とも研究連絡を取りつつ進めており、幾何学的な視点も併せてもつ必要があると考えられる。これまでの研究の流れは概ね、多重ゼータ値の情報を、超幾何関数の性質を用いて解明する、というものであったが、この研究では超幾何関数の性質から多重ゼータ値に持ち込める部分を抽出して適用するという考え方、あるいは多重ゼータ値の自由度を超幾何関数の自由度に映しこむという視点、に立つことで、系統的な関係解明という本課題の目標を遂げたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のための自粛により、予定していた研究集会開催や物品購入計画、研究者招へい計画、および海外を含む研究出張の予定をキャンセルとし、次年度使用額が生じた。次年度の感染症の問題が解消した後に、物品購入計画を進めるとともに、今回見送った海外渡航計画についても実行することで、この次年度使用額を使わせていただきたいと思います。
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