多重ゼータ値と多重ベルヌーイ数を正負の特殊値にもつArakawa-Kaneko型多重ゼータ関数の、特殊値の質の良い和に対する母関数について、超幾何微分方程式の観点に基づく変数変換によって得られる有理線形関係式、とりわけ双対関係を中心とするある種の対象性をもつ関係式族の解明について成果を挙げた。また現象解析的見地からの研究成果の再解釈、すなわち一般超幾何関数のもつ対称性や関係式族の観点から、既に得ている関数関係式あるいは和公式のもつ対称性を理解し直す研究について、Wadim Zudilin氏との共同研究を、コロナ禍による渡航自粛など多大な障害の中であったが推し進めた。直接対話機会の喪失などによって、進めるべき研究の停滞や延期を余儀なくされたものの、一般化超幾何関数におけるパラメータ操作(補間)により興味深い関係式や和公式を統一的に再構成することで、より広範に一般化超幾何関数の優れた特性を多重ゼータ関数の関係式や対称性の解明に持ち込むことを意図し、複数の具体事例において再構成を得た。 他方、こちらも超幾何関数の観点で再解釈すべきSchur型多重ゼータ関数の、特殊値の満たす双対公式とその一般化に中筋麻貴氏(上智大学)と共同で成功した。さらに1変数複素関数に補間した場合でも優れた双対性が保たれることを、中筋麻貴氏(上智大学)と武田渉氏(東京理科大学)との共同研究で得て、日本数学会誌に掲載決定を受けた。汲み上げられた性質をある種の超幾何関数の関数関係式の対称性をもって再解釈する研究も進展させた。また、川﨑菜穂氏(弘前大学)と、古典的なベルヌーイ数やベルヌーイ多項式とその多重化を含む様々な一般化を、発生させる統一的な組合せ論的計算方法を指摘した論文が、海外のオンライン誌に掲載された。この性質も母関数の観点から解釈される現象と考えられ、超幾何関数の微分公式での解明を急いだ。
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