研究実績の概要 |
ガロア点を用いた代数曲線の分類理論、および他分野との関係の創出、を推進した。平面曲線に対して、射影平面内の点からの射影が誘導する関数体の拡大がガロアであるとき、射影の中心点をガロア点という。令和3年度は次の4つの成果があった。 (1) ガロア点研究と有限体上の有理関数の value set 研究を結びつけた。有限体 F_q 上の多項式に対して F_q の元を代入して得られる値全体の集合を value set という。また、無限遠点まで考えることにより、有理関数の value set を考えることができる。2つのガロア点をもつ (有限体上定義された) 平面曲線は、2つの有理関数による関係式の「既約成分」として実現されることがわかった。2つのガロア点による群が半直積を生成するとき、最近の Bartoli, Borges, Quoos の結果と合わせて、これら2つのうち1つの有理関数の value set がとても小さいことがわかった。 (2) 前年度に研究した Hermitian 曲線のある種の elementary abelian p-cover について、Borges 氏の協力を得て、その諸性質を徹底的に調べ上げた。例えば、自己同型群、ガロア点配置を完全決定した。 (3) 平面曲線の2点の射影によるガロア閉包が一致する、標数零の例をはじめて発見した。 (4) 代数曲線上の自己同型に対して、曲線上の一般点の像がその点の接線上にあるとき、その自己同型は non-classical であるという。この non-classical 自己同型に注目し、「ガウス写像が分離的な接的退化曲線」の新しい例を発見した。この種の例は1994年に Esteves-Homma によりたった一例が知られているのみであり、27 年ぶりの新発見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「他分野との関係」研究が存分に進展した。特に、ガロア点研究と有限体上の有理関数の value set 研究とを結びつけたことは特筆に値する。2つのガロア点をもつ平面曲線の定義式に現れる有理関数は、ガロア点が特に曲線の外にあるとき、多項式としてとれる。したがって、ガロア点研究と有限体上の関数研究との結び付けにも成功している。これによって、定義式に使用される2つの多項式として有限体上の有益な関数を設定してガロア点を研究することが可能となった。その第一段階として、MVSP という、value set が最小となるケースを考察した。MVSP と Frobenius nonclassical 曲線の関係を明らかにした Borges の結果を用いて、2つの多項式が MVSP で value set が等しいとき、もとの曲線が Frobenius nonclassical 曲線であることを証明した。 Borges 氏と共同で研究した Hermitian 曲線の elementary abelian p-cover に関する論文は、代数曲線の諸性質 (genus, p-rank, 自己同型群, Weierstrass 点, ガロア点, Frobenius nonclassicality, arc) を徹底的に調べ上げたものとなり、従来から調べるべきと認知されていた性質に加えて「ガロア点」に関する性質が同格に配置されている。これは「ガロア点が一般に調べるべき性質のひとつ」として提案された点においても、意味のある成果であると思われる。 以上の成果により本来であれば「当初の計画以上に進展している」に分類できたかもしれない。しかしながらコロナウィルス対応により、計画していた、海外・国内研究者との対面での議論が不可能となってしまった。慎重に「順調に進展している」に分類した。
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