研究実績の概要 |
一様分布論における研究目標は, 与えられた数列の一様性, およびランダム性の判定である. 特に, 力学系における種々の数系について, ランダム性を比較することが研究テーマの一つである. 本研究では, ベータ展開を含むある種の力学系に対して, ランダム性の比較に成功した. この研究を国際共同研究として論文にまとめ, その結果が査読付きの論文として受理され, web上で公開されている. さらに, 本研究について, 共著者の一人がシンガポールにおける一様分布論の国際研究集会において招待講演として発表した. また, Pisot数を公比に持つ等比数列の小数部分に関して, 漸近的挙動を研究した. 特に2次のPisot数に対して, 最大極限点の解析に成功した. 本研究の成果を論文にまとめ, 現在投稿中である. また, 本研究の成果に関して, シンガポールにおける国際研究集会およびフランスのロレーヌ大学のセミナーに招待され, 発表を行った. また, 共著者が本研究について, 明治学院大学におけるセミナーにおいて招待講演として発表した. さらに, 2019年にフランスと韓国に渡航し, 一様分布論に関する研究打ち合わせを行った. 具体的には, フランスでは, 実数からなる数列の小数部分のランダム性, および整数のb進展開に関する研究打ち合わせを行った. さらに, 韓国では, 等比数列の小数部分に関して, 上記研究の精密化に関する研究打ち合わせを行った. これらの研究について, 今後更にまとめ論文にする予定である. また, 整数のb進展開およびp進数におけるニュートン法に関する国際共同研究を, 金沢における研究集会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数系において, digitの一様性の条件が一致する(normal equivalent)かどうかを判定することは重要な課題の一つである. しかし, 多くの数系に対して, この判定は難しい. 本年度受理された論文では, Pisot数に関するベータ展開を含む数系に対して, 統一的な手法を与えることができた. その結果, 先行研究と比較して数多くの数系を扱うことができるようになった. 特に, 本研究の主結果により, 非可算個の数系を扱えるようになったことにより, 研究を発展させることに成功した. 等比数列の小数部分について, 知られている結果はかなり限定的である. 特に, 極限点については, 知られている事実は少ない. 本研究では, 集積点を集めてできる集合について, 幾何的な性質を研究した. その結果, ラグランジュスペクトラムと呼ばれる力学系の対象と類似の性質が成り立つことが判明した. これは, 等比数列の小数部分に対する研究成果としては初めてのものであり, 新しい知見を得ることができた. 特に, 最大極限点についてはほとんど知られている結果は無かったが, いくつかの最大極限点を明示的に記述することに成功した. その結果, 等比数列の小数部分の漸近的挙動を解析することに成功した. さらに, 最大極限点以外の極限点についても現在研究中である. これについては現在, 国際共同研究により, データを収集している状況である. メールなどで共同研究者と研究打ち合わせを進めており, 研究をまとめて論文にする予定である.
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今後の研究の推進方策 |
多次元数系において, digitの一様性を研究する予定である. まずは複素数平面における一般化ベータ展開に対して, digitの一様性を研究する. 1次元の力学系では, 加法数論による手法が成功した. 複素数平面に対しても同様の手法が適用可能であると期待される. その後はさらに高次元の数系, 例えばshift radix systemにおけるdigitの一様性を考察する. 同時に, 多次元数系においてdigitが周期的になるための条件を考察する. Salem数に対するベータ展開に関するdigitの周期性に関して, 近年著しい結果が得られた. この結果を多次元数系に応用することを試みる. その結果, 高次元における周期性の未解決問題にアプローチできると期待される. 高次元の連分数など, 力学系に関する国内外の研究者と情報を交換することで, 研究を遂行する予定である. さらに, 等比数列の小数部分に関して, 最大極限点以外のものを考察する. 本年度の研究において, 最大極限点の研究に記号力学系が応用可能であることがわかった. この手法を一般化することにより, 極限点に対するさらなる知見を得ることができると期待される. 国内外の研究者と必要な情報を交換することで, 力学系を用いた手法を精密化する予定である.
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