研究課題/領域番号 |
19K03455
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
見正 秀彦 東京電機大学, システムデザイン工学部, 教授 (10435456)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 解析的整数論 / Riemann zeta 関数 / Selberg zeta 関数 / 値分布 |
研究実績の概要 |
本年度は研究実施計画に掲げた3つの目標のうち、目標③“複数のゼータ関数に対する値分布”について大きな結果が得られた。これまでRiemann zeta関数、Hurwitz zeta関数といった、ディリクレ級数で定義されるゼータ関数について値分布の研究が行われてきた。その一方で、オイラー積のみで定義されるゼータ関数については研究はあまり進展していない。このようなゼータ関数の代表として、SL_2(R)の離散部分群に対して定義されるSelbergゼータ関数が挙げられる。2011年にDrungilas,Garunkstis, Kacenas氏らにより、SL_2(Z)に対するSelbergゼータ関数Z_0(s)が普遍性を有すること、すなわち、任意の正則関数はゼータ関数の垂直方向への平行移動Z_0(s+it)により、コンパクト一葉近似できることが証明されたが、その後発展的な結果は得られていない。 私は複数のSelberg zeta関数間に同時普遍性定理が成り立つことを証明した。N_1,..N_rを互いに素な正整数、Z_i(s)を階数N_iの主合同部分群に対するSelberg zeta関数とする。このとき、任意の正則関数の組 (f_1(s),...,f_r(s))が(Z_1(s+it),...,Z_r(s+it))によりコンパクト一様近似できるような実数tが存在する。 この結果はSelberg zeta関数間の統計的挙動の独立性を示す、全く新しい結果である。また、ディリクレ級数に対する同時普遍性がディリクレ係数の直交性に由来するのに対し、Selberg zeta関数の同時普遍性はディリクレ指数の包含関係に由来しており、証明も全く新しいものである。この結果についての論文は雑誌Mathematikaに 投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Selberg zeta関数が興味深い研究対象であることには以前から気付いていたが、基礎知識が不十分であるため、これまで手を付けていなかった。本腰を入れて研究するため、今年度の前半は基礎文献の勉強に集中していた。 そのせいもあり、研究計画については殆ど進展は得られなかった。しかしながら今年度後期では上述した同時普遍性定理という当初は想定していなかった大きな結果を得ることができた。また今後はSelberg zeta関数も研究対象に取り入れることで、研究計画により多様性を持たせることができると考えている。今後の研究の進展の明るさから、 現在までの進捗状況は、概ね順調であると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、2つの研究に取り組んでいる。 1. ディリクレ級数により定義されるゼータ関数については、算術パラメーターの変動に伴う普遍性が成り立つことが知られている。例えば、任意の正則関数f(s)は、適切な実ディリクレ指標λを選べば、ディリクレL関数L(s,λ)によりコンパクト一様近似できる。その応用として、二次体の類数の値分布の一様稠密性が証明される。私は同様の結果がSelberg zeta関数についても成り立つと考え、研究を進めている。 2. 以前、Euler-Zagierの2重ゼータ関数Z_2(u,v)は臨界線Re(s)=1/2上で値分布の稠密性が成り立つことを証明した。現在、一般のEuler-Zagier多重ゼータ関数Z_n(u_1,..,u_n)について、同様の性質が成り立つか研究を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書上では、今年度は計算用コンピューター(単価30万円)を購入し、次年度はタブレット(単価10万円)の購入を想定していた。使用していたコンピューターに特に問題がなく、まだ利用できたこと、その一方で研究を円滑に進めるために大型タブレットの購入が必要となったことから、両者の購入時期を入れ替え、今年度はタブレットを購入した。両者の差額として、209183円の次年度使用額が生じた次第である。
|