研究実績の概要 |
本年度も昨年度に引き続き、研究実施計画に掲げた3つの目標のうち、目標③“複数のゼータ関数に対する値分布”についての研究を行った。値分布に関する研究は、素数の無限積表示を有する数論的ゼータ関数に対して数多くの成果が知られている。一方で、SL_2(R)の離散部分群に対して定義されるSelbergゼータ関数に対し、値分布の研究は最近になって開始された。2011年にDrungilas,Garunkstis, Kacenas氏らにより、SL_2(Z)に対するSelbergゼータ関数Z_0(s)が普遍性を持つことを証明した。 昨年、私は複数のSelberg zeta関数間に同時普遍性定理が成り立つことを証明した。N_1,..N_rを互いに素な正整数、Z_i(s)を階数N_iの主合同部分群に対するSelberg zeta関数とする。このとき、任意の正則関数の組 (f_1(s),...,f_r(s))が(Z_1(s+it),...,Z_r(s+it))によりコンパクト一様近似できるような実数tが存在する。 この結果をいくつかの雑誌に投稿したが、証明の不備を指摘され、修正に多くの時間を要した。最終的に論文は 今年4月にJournal of Number Theoryに受理された(今年9月に出版予定)。一方、修正の過程で証明を見直すうちに、今回の同時普遍性定理が、数論的ゼータ関数であるDedekind zeta関数間の同時普遍性定理の証明と類似していることに気づいた。Dedekind zeta関数間の同時普遍性定理の証明は算術級数の素数定理を使用する方法と、ガロア群の指標に付随するArtin L関数間の同時普遍性定理の系として得る方法の2通りが知られている。昨年私が得た証明は前者に類似している。現在、後者に類似した方法、すなわち、指標付きSelberg zeta関数間の同時普遍性を研究している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、以下の2つの目標に取り組む所存である。 1. 研究実績概要で述べたように、代数体のDedekind zeta関数とSL_2(Z)の部分群のSelberg zeta関数との間には類似点がかなりある。その応用として、以下の2つの研究に取り組む: (i) 研究実績概要で述べた、指標付きSelberg zeta関数間の同時普遍性定理の証明に取り組む。まずは全体の見通しを付けるため、Selberg予想(数論的ゼータ関数のRiemann予想に相当)仮定の下で証明し、その後一般の場合を考察する。 (ii) Dirichlet 指標χに付随するDirichlet L関数L(s,χ)はχの変動に伴う普遍性を有することが知られている。同様の結果が、SL_2(Z)の有限指標λに付随するSelberg zeta関数Z_0(s,λ)についても成り立つかどうかを調査する。 (iii)上記が得られた場合、その応用として、Selberg zeta関数の特殊値の値分布について調べる。 2. 以前、Euler-Zagierの2重ゼータ関数Z_2(u,v)は臨界線Re(s)=1/2上で値分布の稠密性が成り立つことを証明した。現在、一般のEuler-Zagier多重ゼータ関数Z_n(u_1,..,u_n)について、同様の性質が成り立つか研究を進めてる。
|