研究課題/領域番号 |
19K03456
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
柳川 浩二 関西大学, システム理工学部, 教授 (40283006)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | Specht ideal / 組合せ論的可換代数 / Cohen-Macaulay性 / アファイン有向マトロイド |
研究実績の概要 |
2018年度に、「Specht ideal は、いつ Cohen-Macaulayになるか?」と言う基本的な問いを、標数0の場合に解決し、単著論文にまとめていたが、19年度に入って学術雑誌に掲載が決定した(本研究課題の業績には含めていない)。この結果の証明には、Etingof らによる表現論の非常に高度な結果を用いており、ここに「標数0」と言う仮定が効く。彼らの結果に頼らない証明を与えることも、本研究課題の重要な目標の一つであり、様々な試みを行ったが、今のところ成功していない。引き続き、取り組みたい。一方、大きな進展が有ったのは、岡山大学大学院生の柴田孝祐氏との共同研究で行った、Cohen-Macaulay な Specht ideal (上述の論文で確定したもの)の Hilbert 級数の計算である。現在、これに関する論文を学術雑誌に投稿中である。ここではグレブナ基底など環論色の強い手法を用いている。"Specht" と言うからには対称群の表現論を本格的に用いた結果も望まれるが、この方向でも成果が得られつつあり、論文を準備中である。 また、同じく柴田氏との共同で、strongly stable ideal の Alexander 双対についての研究も行った(双対を取る過程で、polarlization と呼ばれるイデアルを経由するのであるが、ここで二重添え字の変数を扱い、本研究課題のもう一本の柱である「アファイン有向マトロイドに付随するイデアル」と関連する)。こちらも、18年度に一応の完成をみていたものであるが、19年度に大幅に改良して論文をまとめ直し、学術雑誌に掲載が決定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cohen-Macaulay な Specht ideal を標数0の場合に決定した18年度執筆の論文が、19年度に入って学術雑誌に受理され、本研究課題も認知され始めたと言える。そんな中、岡山大学大学院生の柴田孝祐氏との共同で、Cohen-Macaulay な Specht ideal の Hilbert 級数の計算に成功した。 Cohen-Macaulay性自体は基礎体の標数に依存するのであるが、標数0で(「どこかの標数で」と言っても同値) Cohen-Macaulay である場合、そのイデアルの Hilbert 級数は標数に依らないことも示した。この主張は、当初から予想していたことであったが、証明は難航すると考えていた。19年度内に達成できたことは幸運であった。このように研究課題の柱の一つである Specht ideal については、当初の計画以上の進展が有ったと言える。 一方、同じく柴田氏との共同研究である、strongly stable ideal の Alexander双対に関する研究は、論文は学術雑誌に受理されたが、反面これが「完成形」であり、この題材に当初期待したような発展性が無いことが分かってきた。また、少し先だって発表されていた G. Floystad 氏の論文と若干の重複が有ることが分かり、気勢を削がれた面も有る(もちろん、柴田氏との論文の最終版では、この重複について明記しており、その上で雑誌への掲載が決定している。) 以上より総合的に見て、「おおむね順調に進展」であると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の通り、Specht ideal に関する研究は好調であり、現在、Gorenstein であるような Specht ideal の(対称群の表現論を用いた)極小自由分解など、新しい結果が得られつつあり、次の論文を準備中である。しかも、この結果は、Cohen-Macaulay な Specht ideal 全般でなく、Gorenstein の場合等そのごく一部を扱うもので、 それをいかに拡張していくかと言う意味で、発展の余地を多く残している。20年度は、この問題に集中したい。 一方、研究課題のもう一つの柱である、アファイン有向マトロイドに付随するイデアルへの応用を期待して始めた、strongly stable ideal の Alexander双対に関する研究は、上述の通り行き詰っており、撤退せざるを得ないであろう。反面、有向マトロイドと可換環論との関連については、最近、他の研究者のプレプリントも出ており、これを参考に新たな方策を探る道が考えられる。 なお、本研究課題の経費の相当部分は、海外も含めた研究集会への参加の為の旅費として活用する計画である。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては、開催される研究集会が大幅に減少する可能性が有る。こうした場合は、21年度への繰り越しも含め柔軟に対応したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2つの理由がある。 1) 本研究課題は、当初2016~18年度の予定であった代表者自身の前課題、基盤研究(C)「アファイン有向マトロイドの位相的研究への可換代数の応用」からの直接的な発展であるが、この研究課題が19年度まで延長され(延長の理由は、18年の台風21号の影響で、海外出張の取り止めた為)、19年度は旧課題からも支出し、活用していた。 2) 夏季休暇中は体調不良で出張を控えた。さらに3月は、新型コロナウイルスの世界的な流行で、参加予定だった研究集会自体がキャンセルされた。
|