研究実績の概要 |
代表者は、本研究課題開始直前の2018年執筆の論文で、「Specht ideal は、いつ Cohen-Macaulay(以下 CM)になるか?」と言う基本的な問いを、標数0の場合に解決した(査読付き学術雑誌に掲載決定済み)。具体的には、標数0のとき、対応するイデアルがCMとなる分割は、次の3種類である。ア. (d,1,...,1), イ. (n-d,d), ウ. (d,d,1)。このうち「ア」は比較的簡明だが、「イ」と「ウ」はデリケートであり、未解明な点が多い(ただし、(n-1,1)の場合は自明)。たとえば、d≧3 のとき、(n-d,d) の Specht ideal のCM性は標数に依存する(標数0のときが最も CM になり易い)。 その後、本研究課題初年度である2019年度には、岡山大学大学院生(当時)の柴田孝祐氏との共同で、「イ」と「ウ」の場合に、剰余環のHilbert 級数を決定した(査読付き学術雑誌に掲載決定済み)。 ここからの直接の流れとして、2020年度には、やはり柴田氏との共同で、標数0の場合に、分割 (n-2,2), (d,d,1) の Specht ideal の極小自由分解を、対称群の表現論(Specht module の理論)を用いて構成した。(n-2,2)の場合は Gorenstein、(d,d,1)の場合は linear free resolution となり、一般の (n-d,d)より格段に制御し易いのが、構成が可能だった理由である。極小自由分解の各自由加群は、既約な Specht module に対応している。この結果も既に論文に纏めており、現在投稿中である。現在はこの結果を一般の (n-d,d) の場合に拡張すべく模索中である。
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今後の研究の推進方策 |
上の「研究実績の概要」欄で述べたように、分割 (n-2,2)や(d,d,1)に付随したイデアルの極小自由分解の Specht module を用いた記述は、2020年度に得られている。現在は、これを一般化した、分割 (n-d,d) の場合の極小自由分解の構成も、目途が立っており、2021年度は細部を確認しながら論文を執筆していくことになる。 ただし、コロナ禍は現在も続いており、研究時間が圧迫されがちなこと、(特に対面形式の)研究集会の開催数が激減していること考慮すると、研究の進展は遅れ、予算も本年度中には執行し切れないことが予想される。その場合は、2022年度にずれ込むことになる。研究期間が延長された場合、表現論のより本格的な応用を志向するのは当然として、純可換環論的な問題として考えられるのは、代表者の2018年の論文で予想されながら現時点でも全く手つかずの、「一般の Specht ideal の被約性」の問題がある。未解決の範囲で最も簡単な (d,d,2)の場合を、グレブナ―基底を用いて精査することから始めたいと考えている。
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