研究課題/領域番号 |
19K03460
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
中江 康晴 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (80506741)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トート葉層構造 / 左順序付け可能 / L空間予想 / アノソフ流 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は, 3次元多様体の位相的性質をよく表すトート葉層構造の存在とその基本群の左順序付け可能性の関係を, Boyer, Gordon, Watsonらによって提示されたL空間予想と合わせて研究することである。本研究課題では特に, 3次元多様体内の結び目や絡み目に沿ったデーン手術により得られる新たな多様体における, トート葉層構造の存在やその基本群の左順序付け可能性に着目して研究を行なっている. 本年は特に, ある3次元多様体の基本群が左順序付け可能になるための条件としてR-covered葉層構造の存在に着目し, さらにこのR-covered葉層構造を安定・不安定葉層構造として持つアノソフ流の存在を用いた研究を行なった。懸垂アノソフ流は自然にR-covered葉層構造を持つが, そのアノソフ流の閉軌道に沿った整数デーン手術で得られるアノソフ流はまたR-covered葉層構造を持つというFenleyの定理を用いて, 一つ穴あきトーラス束を外部空間に持つ結び目に沿った整数デーン手術で得られる閉3次元多様体が左順序付け可能な基本群を持つための条件を得た。この結果は知られていたがいままで明示的な証明が与えられていなかったため, これの明示的な証明を与えた。この結果を用いて, 共同研究者の市原一裕氏と共に, レンズ空間内の一つ穴あきトーラス束を持つ結び目に沿った整数デーン手術で左順序付け可能基本群を持つ多様体を得るための条件を定めた。レンズ空間内のこのような結び目はBakerにより完全に分類されており, 特にそのような結び目のうち双曲的なものに対して, 全ての整数手術で得られる多様体の基本群が左順序付け可能となるための必要十分条件を得た。この成果を論文にまとめプレプリントとして発表し, 学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究における手法は, (1)トート葉層構造を具体的に構成する, (2)基本群が左順序付け可能になるための条件を得る, (3)基本群が左順序付け可能にならないための条件を得る, の3点を主眼に置いている。本年は特に(2)の手法のため, アノソフ流によって得られるR-covered葉層構造に着目し, その閉軌道を結び目と考えた時のデーン手術を用いた研究によって, レンズ空間内の一つ穴あきトーラス束結び目に沿った整数手術に対する結果を得た。このアノソフ流の手術によって得られたR-covered葉層構造は全ての葉が非コンパクトであり, トート葉層構造になっているので, (1)の目的にも合致したものが得られている。 この研究で用いた一つ穴あきトーラス束のモノドロミー行列のトレースが-2より小さい場合, Roberts, Shareshianの結果により, 正のスロープでデーン手術した場合は基本群が左順序付け可能ではないことがわかっている。よってこれは, (3)の目的に関連する結果であることもわかった。(2)の目的のために注目した研究であったが, (1)や(3)の目的とも相互に関係することがわかり, 研究の発展性を見ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
懸垂アノソフ流や測地アノソフ流の閉軌道に沿った整数手術により得られるアノソフ流がR-covered葉層構造をもつことを研究に用いたが, このようなアノソフ流には手術に用いた閉軌道の他にも無限に閉軌道が存在する。これらに沿ってさらに整数手術をすることで, さらに多くのタイプの閉3次元多様体でR-covered葉層構造を持つもの, すなわち基本群が左順序付け可能となるものが得られると期待される。複数の閉軌道で同時に手術する場合にFenleyの定理が適用できる条件を見定め, またこのような閉軌道たちはテンプレート理論により明らかにされているので, これらを組み合わせてあらたな定理を得ることが期待される。 一つ穴あきトーラス束の整数デーン手術でこのようなR-covered葉層構造をもつアノソフ流を得たが, 一つ穴あき曲面束におけるRobertsの研究により, 同時にこの曲面束の変形で得られるトート葉層構造が存在することもわかる。これらは互いに横断的に交わるので, 閉3次元多様体内の互いに横断的に交わるトート葉層構造の3つ組みが得られる。これらと, Robertsの構成によるトート葉層構造のオイラー類との関係を用いて, さらに左順序付け可能な基本群をもつ新たな多様体の研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のため論文誌や関連書籍の購入を計画していたが、一部はオープンアクセスの論文等を利用したために、論文購入のための費用を使い切ることがなかった。これらを次年度に繰越すことで、研究遂行のために必要となる論文誌や関連書籍の購入に充てる予定である。
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