研究課題/領域番号 |
19K03460
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
中江 康晴 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (80506741)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | L-space予想 / 左順序付け可能基本群 / トート葉層構造 / アノソフ流 / アノソフ流の手術 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は, 3次元多様体の位相的性質をよく表すトート葉層構造の存在とその基本群の左順序付け可能性の関係を, Boyer, Gordon, Watsonらによって提示されたL-space予想と合わせて研究することである。 昨年度までの研究成果をまとめた, 共同研究者の市原一裕氏と共著論文が出版された。この共同研究ではレンズ空間内の一つ穴あきトーラス束結び目で双曲的であるものに沿った整数手術によって, R-covered Anosov flowをもち, その結果, 基本群が左順序付け可能となる多様体を決定した。 これに関連して, このようなトーラス束のモノドロミーとして現れる行列の共役類について、Kirbyの問題集にあるL(5,1)のモノドロミーや, 森元勘治氏の論文にあるモノドロミーとの比較を行った。 上記の出版論文で用いられたAnosov流の閉軌道に沿ったFried-Goodman手術の手法を用いて, 特に8の字結び目補空間に着目して研究を行った。8の字結び目補空間におけるAnosov流の閉軌道は, Birman-Williamsによるテンプレート理論によって理解される。そのテンプレートによって明示される閉軌道に沿った手術について野田健夫氏と共同研究を行った。特に周期2の閉軌道はその補空間に2個のみあることがわかった。この2つの閉軌道と8の字結び目とをあわせて3成分絡み目とみなした時, その補空間が双曲空間となることがわかり, それらに沿った例外手術のリストを得ることができた。これらの成果は, R-covered Anosov flowを持つ手術と, もたない手術を判定するために重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究における手法は, (1)トート葉層構造を具体的に構成する, (2)基本群が左順序付け可能になるための条件を得る, (3)基本群が左順序付け可能にならないための条件を得る, の3点を主眼に置いている。 2021年度は(2)の目的を達成する論文の出版を受けて, それをさらに発展させるための, 8の字結び目補空間におけるアノソフ流の閉軌道に沿った手術の例と, それによって得られる閉3次元多様体の性質についての研究を進める予定であった。新型コロナウィルス感染症の蔓延が継続し, 所属大学から移動が著しく制限されたたため, 共同研究者との研究連絡や, 研究集会などへの参加が予定通りにできなかったが, オンラインによる研究集会への参加や, 共同研究者とのオンラインでの研究連絡により, 研究の進捗を得られた。ただ, 本務校における講義などのオンライン化による業務量の増加があり, 十分な研究時間の確保ができなかったため, 当初の予定を超える成果を得ることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に出版された論文で用いた, アノソフ流の閉軌道に沿った手術の手法により得られる多様体の性質について, 本研究課題のテーマであるL-space予想に関連して, 基本群の左順序付け可能性に結びつくR-covered Anosov flowが得られる手術と, R-covered Anosov flowにならない手術の観点から研究を行う。 特に8の字結び目補空間には自然にアノソフ流があり, その補空間におけるアノソフ流の閉軌道に着目して, 野田健夫氏との共同研究を行う。2021年度の研究において, 周期2の閉軌道が2個のみであることがわかっているので, それらと8の字結び目と合わせて3個の成分をもつ3次元球面内の絡み目とみなし, この絡み目に沿った手術で得られる3次元多様体の基本群の左順序付け可能性や, トート葉層構造の存在と性質について研究を行う。 この3個の成分をもつ絡み目の補空間はコンピュータープログラムSnapPyとHIKMOTを用いて双曲多様体となることがわかり, またその3成分絡み目に沿った例外手術となるslopeは, B.Martelli氏のコンピュータープログラムを用いて得ることができた。それら例外手術となるslopeと, アノソフ流の手術との関係について研究を行う。 同様にして, 8の字結び目補空間のアノソフ流の閉軌道は, 周期が3のものが5個, 周期4のものが10個, 周期5のものが24個, 周期6のものが50個あることが, コンピュータを使った計算により得ている。それらを実際に絡み目として正則図に描き, コンピュータを用いて双曲性や例外手術について調べることで, R-covered Anosov flowが得られるかどうかについての研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のために関連する研究集会に参加し, 共同研究者やその他研究者との議論を行なったり, 前年度の研究成果を発表する予定であったが, 新型コロナウィルス感染症の蔓延のため本務校により移動が著しく制限されたため, 出張を行うことができず, 旅費として予定した予算を使用することができなかった。 研究期間を延長し, 2022年度は状況の改善により国内外への出張を行うことを計画し, またコンピュータによる計算を進めるために, さらなるコンピュータ機器や数式処理ソフト等の購入を行う。
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