研究課題/領域番号 |
19K03461
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井ノ口 順一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40309886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガウス写像 / グラスマン幾何 / デモラン曲面 / 射影微分幾何 / 磁場曲線 |
研究実績の概要 |
本研究の主要課題である「調和写像の構成と等質空間内への曲面論への応用」に関し、戸田方程式とグラスマン幾何の2つの観点から研究を遂行し、以下の研究成果を得た。 (1)戸田方程式を射影微分幾何学の観点から研究した。3次元実射影空間内の曲面に対しラプラス系列とよばれる曲面の系列(一般には無限列)が定義される。ラプラス系列に属する曲面の不変量(ラプラス不変量)がみたす連立偏微分方程式系は数理物理学における2次元戸田方程式(2DTL)であることが知られている。ラプラス系列の周期性および周期は2次元戸田方程式のそれらと一致する。周期6のラプラス系列を発生させる曲面はデモラン曲面とよばれ射影微分幾何学における重要なクラスである。正定値の射影計量を備えたデモラン曲面に対し2種類のガウス写像を導入し、デモラン曲面をガウス写像の調和性で特徴づけることに成功した。この結果、ループ群論的構成法が可能であることを証明した(小林真平氏との共著論文を投稿中)。 (2)本研究の目標である3次元反ド・ジッター時空AdS3内の極大曲面および双曲平面Hと数直線の直積リーマン対称空間H×R内の平均曲率一定曲面の構成理論の確立を見据え、H×R内の「標準的な曲面」の構成と分類の研究に着手した。内藤博夫氏との共同研究で、軌道型グラスマン幾何に属する曲面の構造を概ね解明できた(内藤氏との共著論文を準備中)。 (3)(1)の成果とAdS3の極大曲面を結びつける過程で、建築構造設計への応用が可能であることが判明した(建築構造設計研究者との共著論文を準備中)。 (4)(2)の成果と関連する研究としてリーマン多様体の磁場軌道に関する研究を行った(Marian Ioan Munteanu氏との国際共同研究)。この成果について国際研究集会で成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究期間前半の目標は3次元反ド・ジッター時空AdS3内の極大曲面の構成理論および直積リーマン対称空間H×Rの平均曲率一定曲面の構成法を与え、それらの有機的結合を図ることである。今年度、前者については調和写像と戸田方程式の観点から研究を進め、射影構造との類似から研究着手前には得られていなかった新たな着想を得ることができた。 この成果は等質空間内の曲面をガウス写像を介して構成する手法の確立の上で大きな手がかりとなる。後者についてはグラスマン幾何の観点からH×Rの曲面論の特性について、多くの性質解明に至った。次年度の研究を円滑に進める準備を整えることができたことから、研究初年度として、おおむね順調に成果を挙げられたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
リーマン面で定義され双曲平面に値をもつ調和写像は、ある種の正規化が可能なとき,調和写像方程式は戸田方程式に等価となる。今年度の研究は、この事実に立脚したものである。 令和2年度は、正規化が行えない場合の調和写像の構成と曲面論への応用を主たる研究課題として研究を遂行する計画である。 (1)双曲平面(より一般に非コンパクト型対称空間)に値をもつ調和写像で対称性を備えたものを(正規性を仮定せずに)具体的に構成することに着手する。 (2)今年度に行ったH×R内の軌道型グラスマン幾何の研究も継続して行い,論文完成を目指す。またこの成果を、より一般の可約リーマン対称空間の観点から再検討し,(1)の計画との連動を考察する。 (3)磁場曲線や建築構造設計等への応用も適宜、検討する。 研究の進展・競合する海外の研究者の成果発表・研究動向に応じて,研究順序等を適宜修正して対応する。
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