研究課題
本研究の主要課題である「調和写像の構成と等質空間内の曲面論への応用」に関し、等質空間の幾何学の観点から研究を遂行し以下の研究成果を得た。(1)前年度に得た、双曲平面Hに値をもつ「1径数変換群の作用で同変的な調和写像」を用いた3次元ハイゼンベルグ群内の「対称性を備えた極小曲面」の構成法(Dorfmeister氏、小林氏との共同研究)に関し、具体例の詳細な記述を得ることに成功した。(3)Hと数直線の直積空間HXRの軌道型グラスマン幾何に関する前年度の研究成果と調和写像の関連を深めるために新たな研究視点と手法を導入した。Hを複素部分多様体として含む4次元等質空間(サーストン幾何の4次元類似)である2種の空間Sol40およびSol41の曲線論と曲面論を創始した(部分多様体論は未開であった)。調和写像の伝統的構成法である「極小部分多様体の構成」に着手した。極小部分多様体を複素構造の観点から構成し、いくつかの設定下で分類した(Erjavec氏との共著論文投稿中)。さらにJ-軌道(磁場軌道に相当)を分類した。(3)リー球面幾何学の建築構造設計への応用に関する研究成果を国際会議論文として発表した(横須賀氏、大崎氏、本間氏との共著)(4)(1)から(3)の研究過程において、情報幾何学への予期せぬ応用が発見された。正規分布のなす統計多様体に指定される甘利-Chentsov接続は数理統計学に由来するものであり、微分幾何学的な意味、必然性は未解明であった。正規分布のなす統計多様体を統計リー群として実現することによりある種の対称性をもつ唯一の線型接続であることを証明した(古畑氏、小林氏との共著論文を発表)(5)前年度に行った3次元佐々木空間形における磁場軌道の分類を論文発表した(Munteanu氏との共著)。Munteanu氏との検討を継続し、一般の奇数次元への拡張に成功した(共著論文を投稿中)
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究方針は前年度の実施状況報告書「今後の研究の推進方策」で挙げた3つの観点:(1)リー球面幾何学における「極小曲面」、(2)HXR内の軌道型グラスマン幾何と調和写像の関連、(3)磁場軌道や建築構造設計への応用を主軸とするものであった。これまでに得られた射影微分幾何学におけるデモラン曲面および射影極小曲面の調和写像による構成法と、ほぼ並行した議論がリー球面幾何で行えることを検証した。この検証結果から射影微分幾何およびリー球面幾何を統合した「複素幾何学」の観点が今後の研究計画において基軸となるという着想が得られた。この着想を(2)と(3)において活かすため、4次元幾何学における2種のモデル空間(Sol40,Sol41)における部分多様体論を創始し(調和写像の扱いやすいクラスである)極小部分多様体の構成と分類に関する研究成果を得ることができた。前年度において生じた若干の遅れをほぼ取り戻せたと評価し、「おおむね順調」と判断する。
3次元反ド・ジッター時空AdS3における極大曲面(および、極大曲面と対応関係にある直積空間HXRの平均曲率1/2曲面)の調和写像による構成理論確立を目標とし、これまでに発見・着想した「リー球面幾何と射影微分幾何の観点」、「グラスマン幾何の観点」、「複素幾何の観点」の相互関係の解明を行うことを最初の課題に設定する。磁場曲線、工業意匠設計、建築構造設計、情報幾何学への応用も継続して適宜、検討する。研究の進展・競合する研究者の成果発表・研究動向に応じて臨機応変に研究順序などを修正し対応する。
2020年度に開催予定であった第8回欧州数学会議(8th European Congress of Mathematics)ミニシンポジウム“Differential Geometry: Old and New (MS-15)”が延期され2021年度にハイブリッド開催されたが、本研究者はオンラインでの出席となったため、この旅費相当額が未使用となった。またデンマーク工科大学訪問(David Brander氏との研究討議)も実施できなかったため、この旅費相当額も未使用となった。次年度、国際会議がオンライン開催の場合の参加費に充当する。国内での対面による成果発表が可能であれば、学会及び研究集会への参加旅費に充当する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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