研究課題/領域番号 |
19K03462
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
今井 淳 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70221132)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポテンシャル / エネルギー / 正則化 / メビウス不変性 / インダクタンス |
研究実績の概要 |
Mをユークリッド空間のコンパクト部分多様体とする。zを複素数とし、M×M上距離のz乗の積分をzの関数と考えると、解析接続により1位の極のみを持つ有理型関数が得られる。これをMのBrylinskiベータ関数とよぶ。この関数とその留数の性質、およびそれらからMの幾何がどの程度わかるか、ということが研究の主目的であった。(1)ソラネス氏との共同研究で、Mが奇数次元閉部分多様体であるか、偶数次元のコンパクトボディ(全空間と同じ次元の多様体)の場合は、zが多様体の次元(mとする)の(-2)倍のときBrylinskiベータ関数の値(これはMのRiesz (-2m)-エネルギーである)はメビウス変換で不変であることを示したのだが、コンパクトボディの場合の証明が間違えていたことを見つけた。今年度全く新しい方針で正しい証明を与えた。 (2)次に、結び目のメビウス不変なエネルギーの定義にでてくる被積分関数を用いて、結び目の空間上にメビウス変換で不変な計量を定義した。このために、メビウス幾何学の成果と結び目のエネルギーで研究されてきた例を用いた。この結果はメビウス不変な汎関数の勾配の研究に役に立つ。 以下は今年度中に論文が完成しなかったものであるが、(3)ユークリッド空間のm次元閉部分多様体のαエネルギーはαが-2m以下ならば自己反発性をもつ、すなわち、多様体が自己交叉を持とうとするとエネルギーの値が無限大に発散することを、上述のベータ関数の研究で得られた手法を用いて示した。(4)さらに、ポテンシャルに関係して、坂田繁洋氏との共同研究で、狭義冪凸性に関する新しい結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数学的には、今年度に、単著を2本、共著を2本投稿することができた(うち、単著1本、共著1本はアクセプトされた)ので、当初の計画をはるかに上回るペースで進展している。アクセプトされたものは、オンラインでは公開されている(オープンアクセスではない)が、雑誌の号数とページ数がないため、この報告の業績リストにはのせることができないので、この欄に記すと、 Jun O'Hara, Mobius invariant metrics on the space of knots, to appear in Geom. Dedicata, DOI: 10.1007/s10711-020-00518-6 Jun O'Hara and Gil Solanes, Erratum to Regularized Riesz energies of submanifolds, to appear in Math. Nachr. DOI: 10.1002/mana.202000024 である。 一方、予算執行の観点からいうと、今年度中に予定したものを使いきれず、来年度に繰り越しになったため、遅れていると言える。以上のことから、総合的に判断すると、おおむね順調な進展ということになるのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な方針自体は当初からと変わらない。 数学的な面では、多様体のベータ関数とその留数の性質の研究と、それに付随・関連する研究を続けていく。具体的には、(ア)偶数次元閉部分多様体あるいは奇数次元コンパクトボディのz=-2mにおける留数がメビウス不変であることを示しす。これは2次元の閉曲面のときにはWillmoreエネルギーになることから、Willmoreエネルギーの一般化(高次元化)になる。また、コンパクトボディの相対留数からその境界である超曲面の平均曲率やそのラプラシアンがでることを示す。偶数次元閉部分多様体のベータ関数の留数が、次元が4であるときに、Graham-Witten エネルギーなどの既知のメビウス不変な量とは独立であることを示す。(イ)研究実績の概要で述べた(3)と(4)はほぼ論文ができているので、仕上げて投稿する予定である。 予算執行に関して、現在新型コロナの影響で、いろいろな研究集会が中止・延期されている。2020年11月にメキシコのOaxacaで開催される予定の研究集会をはじめとして、例年国内で開催されていたシンポジウムなどもどうなるか分からないため、非常に流動的である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は次の二つである。(1) 2018年度に学科のコース長になったことと、夏以降健康上の理由で、平成28年度から30年度までの予定だった前の科研費「ユークリッド空間のコンパクト部分多様体のポテンシャルとエネルギーの研究」(課題番号 16K05136)を使い切ることができず、令和元年度に繰り越しをした。前の科研費からの執行を優先した結果、この課題番号 19K03462のものからの執行額が減ってしまった。(2) 新型コロナの影響で、2月、3月に予定していた出張を全て取りやめた。 今後の使用計画:今年度参加を予定あるいは検討していた国内外の研究集会・シンポジウムが新型コロナの影響で次々と中止・延期になっているために、現時点の使用計画は極めて流動的である。現時点では、11月にメキシコのOaxacaで開催される予定の研究集会に参加予定であるので、旅費として使用する予定である。また、研究集会が新型コロナの影響でオンラインになりつつあるので、そのための機材の購入にも充てる予定である。
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