研究課題/領域番号 |
19K03462
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
今井 淳 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70221132)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポテンシャル / 留数 / エネルギー / メビウス不変性 |
研究実績の概要 |
(1) Ωをn次元ユークリッド空間のコンパクトボディ(コンパクト部分多様体で次元が全空間と同じもの)とする。ユークリッド空間の点xからの距離のq乗をX上積分したものがΩの点xにおけるRiesz q-ポテンシャルである。qの値が小さい場合には積分が発散するため、これにHadamard正則化を施して有限の値にしたものを代わりに考えることにする。このポテンシャル(qの値によってはポテンシャルをΩの内部に制限したもの)の最大(qの値によっては最小)を与える点(Ωのq-中心と呼ぶことにする)が唯一かどうかという問題をこの10年くらい研究してきた。唯一性を与える十分条件を10年に出したが、その条件から漏れている場合が予想のままになっている。具体的には、Ωが凸であれば全てのqに対してq-中心は唯一であろうと予想していて、qが-n+1と1の間の場合が未解決である。2021年度の前半はこの問題に幾何学的な考察と不等式を用いる方法でチャレンジしたが、残念ながら解決には至らなかった。2020年度にΩが球体に近いならば唯一性が成立することを示す論文を執筆したが、2021年度はそれを修正し完成した。 (2) Mをコンパクトなリーマン多様体、zを複素数とし、Mの二点間の距離のz乗を積空間M×M上積分したものをzの関数と考え、解析接続により定義域を複素平面全体に広げると、1位の極のみを持つ有理型関数が得られる。これをMの有理型エネルギー関数と呼ぶ。この関数とその留数の性質、およびそれらからMの幾何がどの程度わかるかを研究してきた。2017年から続けてきた研究成果を2020年度末に論文にしたものを、構成など大幅に修正して投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度に計画以上に研究が進展したので、上の概要の欄に記したように、2021年度は長い間未解決だった問題に挑戦した。しかしこの問題については成果を挙げることが出来なかったので、2021年度自体は数学的に新しい成果は得られなかった。 ただ、この研究事業を開始した2019年からの通算で考えると、7本の論文がアクセプトされ、それと現在査読中のプレプリントが1つあるので、研究成果という観点からすれば当初の計画を大きく上回るペースで進んでいると考えている。 一方、予算執行の観点からいうと、国内外の研究集会がキャンセルされたりオンラインになったりした関係で、旅費の使用がこの2年なくなってしまった。そのため予定していた額を使い切ることが出来ず、繰り越しすることが続いている。 ただ、この点は致し方ないものなので、総合的に判断すると、当初の計画以上に進展していると言っていいのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な方針自体は当初からと変わらない。 数学的な面では、短期的には、結び目のエネルギーについて、解析でsubcriticalとよばれるクラスのエネルギーの性質をまとめることを目標とする。このクラスのエネルギーが上から抑えられると、結び目を与える埋め込み写像は双リプシッツかつあるヘルダー条件をみたす。このことから、与えられた結び目型の中でエネルギーを最小とするような結び目の存在、およびエネルギーが上から抑えられたときに現れ得る結び目型の有限性が従う。 長期的には、ボディが凸ならば任意のqに対してq-中心が一意であるという自分の予想を引き続き研究する。また、現在著書の第二版と共著のモノグラフを執筆中なので、それを進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナの影響で、当初参加を予定していた国内外の研究集会が中止・延期されたため、その分の旅費がなくなったことである。ただし、繰り越しの金額が大きいのは、2018年度に健康上の問題が生じたことと学科のコース長になったことで繰り越しが生じた影響が尾を引いている。 今後の使用計画:旅費がほとんどないため、使用する金額は予定より下回ることが予想される。現時点での使用計画としては、パソコン(デスクトップおよびノート)および周辺機器、書籍、ソフト、オンラインのための機材の購入である。さらに後期に大学院の授業1つのバイアウトに使用する。
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