「曲面結び目」とは、4次元ユークリッド空間内に滑らかに埋め込まれた閉曲面のことである。ここでは向き付けられた曲面結び目を扱う。曲面結び目の中でも特に、ある曲面結び目を底空間として、それの分岐被覆または非分岐被覆の形をしている曲面結び目「分岐被覆曲面結び目」について、図式の変形や不変量を通して、その性質を研究した。具体的には、「チャート」というグラフの変形を通して得られる「単純化数」の評価や、結び目群の表現についての研究を行った。 「分岐被覆曲面結び目」は、底空間をなす曲面結び目上に描かれる、ある種の有限グラフ「チャート」で表される。任意の分岐被覆曲面結び目は、あるチャートループ付き1ーハンドルをいくつか付加すると、そのチャートが空チャートまたは両端点に1価頂点「黒い頂点」をもつ「フリー・エッジ」いくつかだけから構成されるという「単純な形」に変形できる。この「単純化」に必要な1ーハンドルの個数の最小値が「単純化数」である。また、分岐被覆曲面結び目のなかでも特に、標準的なトーラスの非分岐被覆の形をしているものを「トーラス被覆結び目」という。 特に、最終年度は、分岐被覆曲面結び目の「単純化数」について、チャートの変形による上からの新しい評価を模索した。また、「トーラス被覆結び目」の結び目群の既約なメタべリアンSU(2)表現について、今までの結果をトーラス被覆結び目よりもう少し広い対象にまで拡張できないか試みた。
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