曲面結び目理論における局所変形の研究は、その代数的・幾何的構造の関係を調べる上で基本的である。特に種数1のリボン曲面絡み目は仮想絡み目を用いて表すことができる。この意味で仮想結び目に対する局所変形を調べることは重要な課題である。 本年度はまず、仮想絡み目に対する「仮想デルタ変形」という局所変形を導入し、ふたつの仮想絡み目が仮想デルタ変形で移り合うための必要十分条件を絡み数に由来する「パリティ」を用いて与えることに成功した。特に仮想デルタ変形が仮想結び目に対しては結び目解消操作であることを意味する。この結果から仮想デルタ変形に対応する、種数1のリボン曲面絡み目に対する局所変形を導入でき、曲面絡み目の絡み数を用いて完全に分類できることがわかった。 次にこの精密化として、有向仮想絡み目に対する局所変形を研究した。特に有向仮想デルタ変形はふたつのクラス(タイプ1と2)に分けられる。加えて、有向仮想絡み目に対する仮想シャープ変形と仮想パス変形も考察することにより、タイプ1の仮想デルタ変形と仮想シャープ変形は局所変形として等価で、その分類はパリティで記述できること、また、タイプ2の仮想デルタ変形と仮想パス変形は等価でその分類はパリティの精密化である交差数で記述できることがわかった。これらの結果はいずれも種数1のリボン曲面絡み目に対する新たな局所変形と分類を与えている。 本研究全体を通じて、曲面結び目の射影図がみたすべき必要条件の研究、それを用いた3重点数が4である2次元結び目の完全決定、仮想結び目の3種類の交差多項式とその性質の解明、奇捩れ数に対応する局所変形の決定、さらに仮想絡み目および種数1のリボン曲面絡み目に対する新しい局所変形の発見とその性質の解明などを行うことができた。
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