結び目・3次元多様体の理論は、サーストンによる双曲幾何学の導入や、ジョーンズ、ウィッテン等による量子不変量の発見をきっかけとして大きく発展し、現代の位相幾何学における中心的なテーマの一つとなっている。 本研究が扱う結び目の体積予想は、結び目の代表的な量子不変量として知らていれる色付きジョーンズ多項式の極限に、グロモフ体積、チャーン・サイモンズ不変量、ライデマイスター・トーション等の、結び目補空間の幾何構造から定まる基本的な不変量が現れるという魅力的な予想であり、結び目・3次元多様体の幾何構造と量子不変量を結びつける重要な研究テーマとして、過去四半世紀、多くの研究者の注目を集めてきた。 本研究の目的は、結び目の最も重要なクラスである交代結び目に対する体積予想を肯定的に解決し、一般の結び目に対する体積予想の解決の突破口とすることである。具体的には、交代結び目の補空間の、交代図式に対応した理想四面体分割の非退化性を利用し、色付きジョーンズ多項式の積分表示に鞍点法を適用できることを示すことである。
今年度の研究では、鞍点法を適用できる領域の存在証明に向け、交代結び目のキューブ構造から、結び目群の放物型表現を与える基本領域への変形を模索した。具体的には、結び目の補空間の理想四面体分割を用いて、結び目群の放物型表現を効率的に求める方法を開発し、放物型表現に対応する理想四面体の退化のパターンを分類した。交代結び目のキューブ構造から放物型表現に対応する理想四面体への変形は未だ実現できていないが、今年度の研究の副産物として、結び目の半順序、すなわち結び目群間の全射準同型の研究への応用が期待できる。
|