単連結完備負曲率リーマン多様体の粗幾何学における類似物が、Gromov双曲空間であり、これまで幾何学的群論や非可換幾何学の観点から数多の研究が為されてきた。近年、「負曲率」を「非正曲率」に置き換えた、様々な距離空間のクラスが活発に研究されている。尾國新一氏との共同研究で2017年に導入した粗凸空間、はそうした空間の多くを包含する非正曲率空間のクラスである。2017年の研究では、粗凸空間に対して、非可換幾何学における主要な問題の一つである、粗Baum-Connes予想が成立することを、必要最小限の準備の元で示した。そこで本研究では、改めて粗凸空間の基礎理論の構築を行った。特に境界にまつわる諸概念を整備した。
2022年度に実施した松家拓稔氏との共同研究では、測地的粗凸空間の自由積を構成し、それが測地的粗凸空間になることを示した。最終年度は、測地的粗凸空間の自由積の境界の位相構造の研究を行った。測地的粗凸空間の自由積の境界のホモロジーが、各因子の境界のホモロジーと、Cantor空間のホモロジーを用いて完全に記述できることを示した。昨年度の測地的粗凸空間の自由積に対する粗Baum-Connes予想の結果を組み合わせて、測地的粗凸空間の自由積のRoe代数のK群を、各因子のRoe代数のK群と、Cantor空間のK-ホモロジーを用いて記述することができた。また応用として、境界の位相次元に関する公式を得た。
一連の研究を通して、粗幾何学の意味で非正曲率を持つ空間のクラスを広げ、粗Baum-Connes予想をはじめとする非可換幾何学の諸問題への応用が得られた。
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