研究課題/領域番号 |
19K03474
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
服部 広大 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30586087)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超ケーラー多様体 / 幾何学的量子化 / K3曲面 / スペクトル構造 |
研究実績の概要 |
2020年度までの研究において、2次元に退化するK3曲面上の超ケーラー計量の族に対して、前量子化束上のラプラシアンのスペクトル構造の収束について研究した。K3曲面上の超ケーラー計量の退化については、1、2、3次元にそれぞれ退化する例が知られているが、2021年度は3次元への退化について研究した。この方向性の研究では、Foscoloによる3次元トーラスの商への退化に関する結果が知られている。Foscoloは、A型またはD型のALF空間と、T^3/Z_2 上のU(1)束上のGibbons-Hawking計量を貼り合わせることにより、K3曲面上の超ケーラー計量の1パラメータ族を構成した。さらにこの計量の族がT^3/Z_2上の平坦計量から誘導される距離空間にGromov -Hausdorff収束することを証明している。この計量の族を理解するためには、最初に与えるALF空間の構造をよく理解することが重要となるため、A型及びD型ALF空間について研究した。このうちA型ALF空間は全てGibbons-Hawking計量として記述できることが知られている。D型ALF空間については何種類かの構成が研究されてきたが、計量の挙動を調べる上で役に立つのはAuvrayによる貼り合わせの構成である。しかし彼の構成では、kを2以上とするときのD_k型ALF空間について研究しており、Foscoloの結果に現れるD_0型及びD_1型ALF空間については網羅されていない。このうちD_0型ALF空間はAtiyah-Hitchinによる構成が知られているので、2021年度の研究ではAtiyah-Hitchinによる構成をよく調べることにより、D_0型ALE空間の位相的構造を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シンプレクティック多様体上の幾何学的量子化の問題に対して、前量子化束上のラプラシアンのスペクトル構造の収束の観点からアプローチする方法により、ボーア・ゾンマーフェルトファイバーが特異な場合であってもいくつかの例において理解が進んだ。これらの例を統一的に扱うような枠組みの開発には到達していないが、K3曲面上の超ケーラー計量のような明示的な記述が困難な幾何学的対象に対しても適用できることがわかってきたので、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
K3曲面上の超ケーラー計量の3次元トーラスへの退化については、まだ明らかでない点が残っており、その困難の本質はD型のALF空間の理解に帰着されている。D型のALF空間についてはいくつかの構成法が知られているが、特に計量の漸近的性質などを研究するのに便利な手法が未発展である。D_1型ALF空間はD_0型ALF空間の2重被覆であることは知られているが、超ケーラー計量の変形の次元はD_0型のそれよりも真に大きくなるので、超ケーラー構造を単に被覆写像によって引き戻して得られる構造だけでは十分な理解に達することがない。そのため、D_0型の変形に帰着できない方向への変形をどのように得るか、または記述するかが今後の課題となる。 また、超ケーラー多様体以外の幾何学的構造において、スペクトル構造と位相的な性質の関係が記述できる例を探すことも課題である。例外型リー群をホロノミー群とするようなリッチ平坦多様体に対しても、何らかの幾何学的意味を持つファイブレーションの構造を持つ場合に位相的不変量の局所化が起こりうるかどうかを研究したい。その場合に、シンプレクティック多様体における概複素構造の役割をする幾何学的対象やボーア・ゾンマーフェルトファイバーに対応する概念を定義することができるかどうかを研究することが重要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、国内外の多くの研究集会がキャンセルまたはオンライン開催となった。幾何学シンポジウムや日本数学会秋季総合分科会など本来は対面で開催されるはずのいくつかの研究集会に参加する予定であったが、これらがオンライン開催となったために、これらの出張旅費として確保していた研究費が未使用となった。2022年度は、対面開催が再開される研究集会に参加して情報収集し、また研究討論のために福岡大学に出張する予定であり、これらの旅費として使用する予定である。さらに、研究内容をまとめるためのノートPCの購入費用として使用する。
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