研究課題/領域番号 |
19K03477
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆夫 東京理科大学, 理学部第二部数学科, 教授 (70533256)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自由群の自己同型群 / ねじれ係数コホモロジー |
研究実績の概要 |
今年度は,階数2の自由群のある種のverbal部分群への自由群の自己同型群の作用に関するねじれ係数1次元コホモロジーの計算を行い,非自明なコホモロジー類がいくつか得られた.
dを2以上の整数とする.自由群においてある語の$d$乗として表される元すべて,及び任意の交換子すべてで生成される部分群をVとおく.一般に,Vは自由群のverbal部分群呼ばれ,自由群の特性部分群であり,Vのアーベル化には自由群の自己同型群が自然に作用する.これまで,自由群のアーベル化を経由するような自由群の自己同型群のねじれ係数コホモロジーに関しては河澄響矢,Djament, Vespa, Randal-Williamsらの独立した研究によりいくつかの注目すべき結果が得られているが,Vのアーベル化への作用は自由群のアーベル化への作用を経由しない.
自由群のアーベル化への自由群の自己同型群の作用に関するねじれ係数1次元コホモロジー群は,森田茂之によってMagnus表現を用いて構成された森田コサイクルによって生成されることが研究代表者の過去の研究で知られている.Vのアーベル化への作用に関しても,森田コサイクルを用いて2つの一次独立な1次元コホモロジー類が構成できることが容易にわかるが,自由群の階数が2かつ,dが奇素数の2倍の場合にはそれら以外に非自明なコホモロジー類が存在することがスペクトル系列等を用いた具体的な計算により分かった.現在は一般のdや階数の場合についてのコホモロジーの研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自由群のアーベル化を経由するような自由群の自己同型群の作用に関する非安定コホモロジーの研究に関しては,IA自己同型群の1次元コホモロジー群の3次以上のカップ積の像の構造は依然として複雑で,GL表現を用いた既約分解を決定できておらず,それらを用いた自由群の自己同型群のねじれ係数コホモロジーの研究を進められていない.そこで,自由群の自己同型群の非自明な新しい非安定コホモロジー類の発見,構成を目的として,上述の自由群のアーベル化を経由しないような,新しい係数を用いて自由群の自己同型群の1次元コホモロジー群の計算を行った.一般に,このような係数は自由アーベル群であってもその階数が非常に高く,種々の具体的な計算において大きな複雑さを伴う.
当初,過去の計算結果をもとに,およそ非自明なコホモロジー類は森田コサイクルを用いて構成されるものだけであると予想しており,それを完遂する研究作業を進めていたところ,思いのほか複雑な構造で,結果として森田コサイクルとは本質的に異なると思われる非自明なコサイクルが見つかったことは想定外の発見でもあった.
まだ階数が2で係数も限定的な場合しか結果が得られていないので,今後も精力的に研究を進めて,このようなコホモロジー類の全体像を明らかにしたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,自由群のverbal部分群のアーベル化への自由群の自己同型群の作用に関する1次元コホモロジーに関する研究は今後もそれなりに進展が見込める.さらに,得られた1次元コホモロジー類のカップ積を用いて高次元コホモロジー類をどの程度作り出せるかという問題も考えられる.また,Johnson準同型の理論と類似の理論を構築してコホモロジーとの関係も考察したい.
一方,Djarment, VespaらによるFunctor homologyを用いた安定コホモロジーの構造の研究にも大いに興味があり,当初の研究計画の一つでもあった,自由群の自己同型群のFricke指標環への作用に関するねじれ係数コホモロジーの研究と同様に是非取り組みたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で,当初予定していた国内外への出張が激減したことが一番の理由である.
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