研究課題/領域番号 |
19K03479
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
吉田 尚彦 明治大学, 理工学部, 専任講師 (70451903)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 幾何学的量子化 / Lagrangeファイバー束 / Spin-c量子化 / 実量子化 / 断熱極限 |
研究実績の概要 |
Lagrangeファイバー束の幾何学的量子化についての自身の先行研究において、ファイバー束の全空間がコンパクトな場合、概複素構造に関するある技術的な条件の下、前量子化束の切断のBohr-Sommerfeld点で添え字づけられた互いに直交する族で次の性質を持つものを構成した:断熱極限の下で、(1) 各切断の台が対応するBohr-Sommerfeldファイバーに集中する。(2) 各切断にSpinc Dirac作用素を施したものが0に収束する。Lagrangeファイバー束の全空間がKahlerの場合には,そのような族を正則切断の族であるように構成することが出来る。 前量子化束の滑らかな切断の空間には、全空間上の関数が線型作用素として作用する。全空間がKahlerの場合にこの作用素が正則切断の空間を保つ為の条件を調べると、全空間がコンパクトの場合には、対応する関数は定数関数でなければならないことが分かった。幾何学的量子化の観点からは、この結果はあまり興味深いものではない。 そこで今年度は、先行研究の手法を見直すことで、全空間のコンパクト性を仮定しない場合にも、これまでに得られた結果を次のように一般化することに成功した。すなわち、概複素構造に関するある技術的な条件の下、前量子化束の二乗可積分な切断の空間のBohr-Sommerfeld点で添え字づけられた直交系で上記の性質(1)、(2)を持つものが構成できた。特に、Lagrangeファイバー束の全空間がKahlerの場合には,二乗可積分な正則切断の空間の完全直交系で上記(1)を満たすものが構成出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までは、新型コロナウイルスの影響で研究を進展させることがほとんど出来なかった。今年度は、研究を進展させることが出来たが、まだ、遅れを取り返すには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに予定していたが実施できていないものも含め、以下の計画を実施したい。 (1) Kostant-Souriauによる幾何学的量子化の枠組みでは、シンプレクティック多様体上の関数fに対して、前量子化束の滑らかな切断の空間上に線型作用素が定まる。これを前量子化作用素とよび、Q(f)を表すことにする。シンプレクティック多様体がKahlerの場合、Q(f)が二乗可積分な正則切断の空間を保つ為の条件を調べ、保つ場合には、先行研究でえられた完全直交系に関する表現行列をもとめる。また、Q(f)の断熱極限を考察する。概複素構造が可積分でない場合には、上述の条件を満たすfについて、先行研究で得られた完全系が生成するHilbert空間HとそのQ(f)による像Q(f)Hとのずれを評価する。 (2) 先行研究の状況で、Spin-c Dirac作用素の核が断熱極限の下で実量子化における量子Hilbert空間に、何らかの意味で、収束することを示す。 (3) 先行研究では、トーラスTの余接束への離散群作用による商として得られるLagrangeファイバー束の幾何学的量子化を考えていた。一方で、トーラスTの余接束にはTの部分トーラスのHamilton作用もあり、離散群作用の代わりに、この作用によるシンプレクティックカットを考えることで、非退化楕円型特異点を許容する特異Lagrangeファイバー束が得られる。この場合にも、先行研究と同様の研究を行う。特に、特異ファイバーの近傍で二乗可積分な正則切断の断熱極限を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年から2022年にかけて、新型コロナウイルス感染症の影響で、渡航しての研究打ち合わせ、参加予定であった国内外の研究集会、学会が中止、或いはオンライン開催になったため、旅費の支出がなくなった。研究集会が対面開催に戻り始めているため、新型コロナウイルスの状況を見極めた上で、対面参加をする。
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