研究実績の概要 |
コクセター系(W,S)の生成系Sによる、群Wの母関数(増大度関数)の収束半径の逆数は増大度と呼ばれ、Sの元が鏡映として空間に離散的に作用する際、Wの基本領域である多面体が空間をタイル張りする拡がり方を表す量である。一方(W,S)から |S|-次元実アファイン空間に W-不変な2次形式Bが定義され、(W,S)の幾何学的実現と呼ばれるWから直交群O(V, B)への単射準同型が定まる。この時コクセター元と呼ばれるWの元のスペクトル半径が、(W,S)の幾何学的実現から一意に決まる。アファインコクセター系 A_{k-1} の頂点の1つに辺を付け加えたコクセター系を Ah_{k} とするとき、k が奇数ならば Ah_{k} のコクセターグラフは双曲的かつ結晶的な2部グラフになるので、マクマレンの結果より2部コクセター元のスペクトル半径はサラム数になる。今回の研究では、k が偶数の時に Ah_{k} のコクセターグラフの2重被覆をとったグラフに対応するコクセター系が、 k が8以下なら双曲的で、k が10以上なら高階数というクラスになることを示した。よってマクマレンの結果より k が8以下なら2部コクセター元のスペクトル半径はサラム数だが、k=10 の場合は2サラム数になることを示した。今回の結果の応用としてAh_{10} の2重被覆をとった2部グラフに対応する単純閉曲線を種数10の閉曲面に描き、互いの交わらない10個の単純閉曲線の族AとBの積のデーン・ツイストの積ABからなる擬アノソフ写像の拡大率を考えることで、擬アノソフ写像の拡大率が2サラム数になることが分かる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウイルスのため、共同研究等が全く進展しなかったので、Coxeter群の増大度とCoxeter元のスペクトル半径の間のMcKay対応の研究については進展がなかった。一方、Ah_{k} のコクセターグラフの2重被覆をとったグラフに対応するコクセター系についてはkが10以下の偶数の場合に進展があったので、さらに k=12,14,16 と同様に2サラム数になるが、k=18 の場合は再びサラム数になり、一般に k が10以上なら2サラム数になるかを現在調べている。今回の結果の応用として拡大率が2サラム数になる擬アノソフ写像が構成できる。具体的には以下のサーストンの構成を用いる。種数が2以上のコンパクトで向き付け可能な曲面上の2組の多重単純閉曲線族AとBを考える。それらの各成分である単純閉曲線を頂点とし、交わる場合にのみ交点数の数だけの線分で頂点どうしを結ぶことにより2部グラフができる。このグラフから二次形式が得られ、その二次形式を保つような鏡映群が定義される。このときデーン・ツイストの積ABからなる擬アノソフ写像の拡大率が、対応するコクセター群の2部コクセター元のスペクトル半径に一致することをレイニンガーは示した。そこで今回のAh_{10} の2重被覆をとった2部グラフに対応する単純閉曲線を種数10の閉曲面に描き、互いの交わらない10個の単純閉曲線の族AとBの積のデーン・ツイストの積ABからなる擬アノソフ写像の拡大率を考えることで、擬アノソフ写像の拡大率が2サラム数になることが分かる。
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