研究課題/領域番号 |
19K03484
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
寺本 央 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (90463728)
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研究分担者 |
鍋島 克輔 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (00572629)
加葉田 雄太朗 長崎大学, 情報データ科学部, 助教 (40830097)
泉屋 周一 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (80127422)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 包括的標準系 / 混合加群 / 特異点論 / 計算代数 / 発散図式 |
研究実績の概要 |
2019年度に二つの異なる局所環上の加群の和として書ける混合加群に対するグレブナー(標準)基底を計算するためのアルゴリズムおよびそのパラメータ付きの混合加群への拡張である包括的標準系の概念及びその計算アルゴリズムを与え、2020年度7月に数式処理のトップカンファレンスであるISSAC2020で発表した。
特異点論におけるA同値やKB同値といった同値関係における接空間は以上のような二つの異なる局所環上の加群の和として書ける構造を持っているが、コンピュータービジョンへの応用で出てくる同値関係、多目的最適化の文脈で自然な同値関係として出てくるパレートA同値、発散図式等の同値関係のもとではそれらの接空間は三つ以上の異なる局所環上の加群の和となるため、それらの同値関係の下特異点の自動分類をするためにはそのような混合加群に関するグレブナー(標準)基底の概念及びアルゴリズムが必要である。2020年度は一般の混合加群に対するグレブナー(標準)基底の概念を定義し、それを計算するためのアルゴリズムを構築した。また、混合加群がパラメータに依存している場合にも使えるよう対応する包括的標準系の概念及びアルゴリズムを構築した。また、このアルゴリズムをもちいて、Mancini et al (2002)によるR <- R^2 -> R型の発散図式の形式的余次元が有限な写像芽の分類のいくつかの結果を再現できることを確認した。また、Matherの補題の条件を接空間の標準基底を用いて半自動的にチェックするためのアルゴリズムも考案し、k-jetの分類に使えることをいくつかの例で検証した。この結果は研究集会【幾何や自然科学に現れる特異点】【2月17日~19日】で報告し、現在Journal of Symbolic Computationに投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の概要に「包括的グレブナー基底系の概念をmixed moduleを扱えるように拡張し、計算代数をもちい特異点分類のための具体的なアルゴリズムを構築する。また、それを特異点の分類(A, K, C, R)同値、KB同値、(VK, VR)同値、あるいは近年泉屋らにより提唱されているより一般的な同値関係、さらにそれらの同変な場合、等に組織的に適用することにより、数学あるいは諸科学への特異点論の応用を推し進めること、また、一般論構築の立場からはどのような一般論が望ましいかを再考することを目標とする。」と書いた。
2019年度と2020年度で包括的グレブナー基底系の概念は一般の混合加群(mixed module)を扱えるよう拡張し、それらをA同値とR <- R^2 -> Rの型の発散図式の接空間の余次元等の計算に適用し、RigerらとManciniらの先行研究の結果を再現できることを確認できた。また、接空間の混合加群を用いて、完全完備横断性定理(complete transversal theorem)やMatherの補題を使ったk-jetの半自動分類アルゴリズムを構築した。以上のようにアルゴリズムの構築及び実証が進んでおり、申請時の概要に書いたより一般の同値関係の下での特異点の分類にそれらを適用するための準備は整いつつある。 また、そのアルゴリズムを用いて多目的最適化問題におけるパレート集合とパレートフロントの微分位相幾何学的分類(SIAM J. Optim., 30(3), 2659 (2020))、有限群の同変な作用の下でのバンド交差の微分位相幾何学的構造の分類、超局所解析にあらわれるprincipal symbolの分類(arXiv:2004.11941)等も並行して進めている。 以上のことから申請時の概要に書いたことは順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究調書の概要の後半で記述した、同変性が加味された特異点の分類における有限確定性の評価の改良、モジュライパラメータを含む分類に対する認識問題の計算代数による自動判定、分類の重複度、チャーン数、Winding Number、Vassiliev型不変量等の不変量の計算アルゴリズム構築、Adjacency Diagramの自動構築アルゴリズム等の開発、等を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により発表予定であったギリシャ、ポーランドの国際研究集会がオンラインでの開催となった。また、研究分担者と情報交換をするため九州大学と徳島大学への旅費を計上していたが、それらもコロナ禍でキャンセルとなってしまった。今後のコロナ禍の情勢がわからないが、コロナ禍が収束し、出張可能な状況となれば、研究分担者のものを訪問するための旅費に充てる。また、良い人材がいれば短期支援員として雇用して、自動分類アルゴリズムの実装等をさせる等を検討したい。
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