現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に境界付き多様体のMorse関数に対して臨界点を結ぶ勾配ベクトル場の積分曲線のモジュライ空間のコンパクト化について考察を行った。境界付き多様体上の勾配ベクトル場が境界に沿うようなRiemann計量とMorse関数の組を考える。この場合多様体の内部だけでなく境界上にも臨界点が現れるが、特に境界上の臨界点には負の勾配ベクトル場が流れ込むもの(+型)と湧き出るもの(-型)の二つのタイプが現れる。そしてこのような設定のもとでMorse指数の差が2の内部の臨界点p,qを結ぶ積分曲線の列で境界に向けて発散するものがあるとすると、その極限にpと+型の臨界点γを結ぶ積分曲線と、γと-型の臨界点δを結ぶ境界上の積分曲線と、δとqを結ぶ積分曲線の3本の積分曲線に収束するようなものが出現する。一方、実数直線R上の3点x,y,z(x<y<z)の配置空間を考え、z-yの逆数をs、y-xの逆数をtをしたとき、この配置空間のコンパクト化はC={(s,t)|s≧0, t≧0}となる。このとき3点x,y,z(x<y<z)を乗せたRから境界付き多様体上のMorse関数のMorse指数の差が2の内部の臨界点p,qを結ぶ負の勾配ベクトル場の積分曲線の列があったとき、もしyの像が境界に向かって発散する場合、その極限に現れる3本の積分曲線の定義域はCにおける(s,t)=(0,0)の点に対応する。この(s,t)=(0,0)はCの余次元が2の点であるが、一方、Morse指数の差が2の内部の臨界点を結ぶ積分曲線の極限としてはモジュライ空間の余次元1の点として捕らえる必要がある。また勾配treeにおいても同様の問題が生じる。本年度はこの問題点について詳しく考察した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き境界付き多様体上のMorse関数を勾配ベクトル場を辺に持つ勾配treeのモジュライ空間を調べる。このとき主に次の2つの文献と本研究との内容を比較、参考にしながら研究を進める。はじめはU. Frauenfelder and R. Nicholls, The moduli space of gradient flow lines and Morse homology, preprint, arXiv:2005.10799v1. この論文は閉多様体のMorseホモロジーの教科書であるが、著者達はFloerホモロジーを念頭においている。ここではMorse関数の勾配ベクトル場の積分曲線のモジュライ空間について主にFredholm理論と横断正則性が論じられている。特に横断正則性の議論はRiemann計量の摂動を用いているようであるが、しかしFukaya-Onoにより導入された倉西構造の観点からは、Floer理論を念頭においているならばこの方法はあまり筋が良くない。勾配ベクトル場の積分曲線のモジュライ空間に倉西構造を構成するべきである。次はS. Mescher, Perturbed Gradient Flow Trees and A∞-algebra Structures in Morse Cohomology, Springer. この著書の特徴はAbouzaidにより導入された摂動勾配treeを用いて閉多様体上のMorse関数についてのA無限大代数の構造を構成している点である。通常、このA無限大代数を構成する際には複数のMorse関数を用いるのであるが、Abouzaidは摂動勾配treeを用いることにより一つのMorse関数を用いてA無限大代数を構成している。これは本研究の観点からも大変興味深い。まずはこれらの文献と本研究との内容を比較、参考にしながら研究を進める。
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