研究課題/領域番号 |
19K03502
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
茂手木 公彦 日本大学, 文理学部, 教授 (40219978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Dehn手術 / 基本群 / 共役ねじれ元 / スロープ予想 / ストロングスロープ予想 / 本質的曲面 / 結び目交点数 |
研究実績の概要 |
群の自由積や融合積を用いて、より大きな階数をもつ群を構成することができる。従って、共役ねじれ元をもつ既知の3次元多様体の連結和やトーラスでの貼り合わせを行ない、基本群の階数が大きな3次元多様体でねじれ共役元をもつものを構成することができる。一方、基本群の階数が2より大きな3次元双曲多様体で、ねじれ共役元をもつものはこれまでに知られていなかった。一般に基本群が3以上の階数をもっている場合、その群表示から共役ねじれ元を見つけることは非常に困難である。本研究ではDehnフィリングにより共役ねじれ元が発生するメカニズムを利用して、1より大きな任意の整数nに対して、基本群の階数がnで共役ねじれ元をもつような3次元双曲多様体を構成した。さらに、位数2の共役ねじれ元をもつような結び目群を完全に決定することに成功した。これらの結果をまとめた共著論文はともに出版が受理されている。 結び目外部空間の本質的曲面はDehn手術の幾何的な側面で重要な役割を担っているが、色付きジョーンズ多項式の最高次数が結び目外部空間の本質的曲面のトポロジーに関する情報をもっているというスロープ予想とストロングスロープ予想が近年盛んに研究されている。本研究ではKenneth Baker氏と高田敏恵氏との共同研究を継続し、Mazurパターンサテライト結び目に対してスロープ予想とストロングスロープ予想を、ある条件のもとで肯定的に解決した。条件を満たさない結び目が存在すれば反例が得られることもわかった。これらの結果を論文として完成させるとともに、色付きジョーンズ多項式の計算を利用してJones直径を決定し、Mazurパターンサテライト結び目の無限族に対して結び目最小交点数を誤差1で決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Dehn手術の代数的側面の研究として、Dehn手術で得られた3次元多様体の基本群が共役ねじれ元をもつことの証明に取り組んでいる。これまでの共同研究で、結び目群の共役ねじれ元に由来しない共役ねじれ元の発生の仕組みの1つが明らかになった。本年度はこの仕組みを利用して、1より大きな任意の整数nに対して、基本群の階数がnで、共役ねじれ元をもつような3次元双曲多様体を構成することができた。これまでに知られていた例では基本群の階数は2であったので、この結果の意義は大きい。また、共役ねじれ元で位数が2のものについて、結び目群という条件付きではあるが、結び目群で位数が2の共役ねじれ元をもつものを決定できたのは大きな成果であった。3以上の共役ねじれ元に対しては、一般に位数の決定自体が難しいと思われる。 共役ねじれ元がDehnフィリングで保たれるかという問題から派生した、すべての非自明なDehnフィリングで自明化されないような元に関する研究を、伊藤哲也氏、寺垣内政一氏と共に進めている。このような元が結び目群の中でどのくらい豊富にあるかという問題はProperty Pを強化した問題と捉えることができ、これ自身独立した重要な問題である。現在、いくつかの部分的な結果が得られており、今後も継続して研究を進める予定である。 また、スロープ予想の研究で得られたMazurパターンサテライト結び目の色付きジョーンズ多項式の計算を元にして、Mazurパターンサテライト結び目の無限族に対して結び目交点数を誤差1で決定できたことは思わぬ副産物であった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究で、1より大きな任意の整数nに対して、基本群の階数がnで共役ねじれ元をもつような3次元双曲多様体を構成することができた。そこで、いったん共役ねじれ元の研究から離れ、結び目群の共役ねじれ元がDehnフィリングによって保たれるかという問題から派生した、非自明な元がDehnフィリングでどのように自明化されるかという問題について研究を深めていく予定である。この問題は、Dehnフィリングで自明化される元からなる正規部分群の研究に帰着される。このような正規部分群は、スロープ元の正規閉包として記述される。結び目の各スロープは1つの有理数に対応しており、スロープ元の正規閉包は結び目群の中に有理数分だけ存在している。これまでの研究(伊藤哲也氏、寺垣内政一氏との共同研究)で、これらの正規部分群の交わりについてはさまざまな事実が解明されているが、和集合についてはほとんど何もわかっていない。和集合に属さない元はすべての非自明なDehnフィリングで自明化されない、Dehnフィリングに対して強い耐性をもつ元で、Dehnフィリングの代数的研究において重要な対象である。今後、このような元が結び目群の中で一般的であることを定式化するとともに、それを証明したい。 Dehn手術とも深い関わりをもつ本質的曲面に関するスロープ予想、ストロングスロープ予想の研究をきっかけに始まった結び目交点数の研究も進めていきたいと考えている。結び目交点数は最も単純な結び目不変量であるが、Kirbyの問題集でも取り上げられているように未解決問題が多数残された研究対象である。この機会に結び目交点数に関して興味深い結果を得たいと考えている。 研究を円滑に進めるために、セミナーや勉強会を開催し、最新の情報の収集にも努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度もコロナ禍の影響で多くの研究がオンラインまたはハイブリッドという形式で行われた。特に、国外での研究集会に参加する機会がなかった。そのため、国内外の研究集会参加のための旅費を使用する機会が著しく減ってしまった。このような理由により多額の次年度使用が生じてしまった。2023年度は、多くの研究集会が対面で実施される予定であり、そのための旅費にあてて有効に利用したい。特に12月にはメキシコで国際会議があり、そこでの招待講演が予定されているので、積極的に国外の研究集会にも出席し、研究成果を発表していきたい。一方、依然としてZoomを利用した研究集会も予定されており、オンライン開催での研究集会に備えた環境を充実させるとともに研究推進のためのコンピュータ環境の整備を充実させる。
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