研究課題/領域番号 |
19K03512
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白石 潤一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (20272536)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Ruijsenaars模型 / Macdonald多項式 / q 差分戸田方程式 |
研究実績の概要 |
(1)Edwin Langmann氏、野海正俊氏、との共同研究により、楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の固有関数の構成を行なった。楕円Ruijsenaars差分作用素の可換族は、三角関数の極限ではMacdonald作用素の族に退化し、その同時固有関数はMacdonald 多項式で与えられる。従って、その明示的公式等を含めて深い理解が得られている。一方、楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の固有関数については、いくつか先行研究の結果があるが、系統的な理解はあまり得られていなかった。我々の共同研究では、次の2種類の固有関数が構成された。 (i)楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の漸近自由解。これはMacdonald作用素に関する漸近自由解(野海・白石)を初項として楕円ノーム p に関する無限級数として展開される。この無限級数はある領域で収束して解析関数を与える。その優級数を扱うために、ある(カタラン的な)非線形な漸化式が調べられた。 (ii)Macdonald 多項式を初項に持ち, p に関する級数として定められる解。本来、このタイプの解が楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の理論の研究の基礎を成すのだが、我々はその収束・存在を、(i)の漸近自由解に対してある種の積分変換を施すことによって証明した。また、非定常Ruijsenaars関数との関係について、現在も継続して共同研究をおこなっている。 (2)星野歩氏、大久保勇輔氏、との共同研究により、Bn型 q 差分戸田方程式の固有関数についての予想(星野・白石)について、証明が与えられた。q 差分戸田方程式の固有関数についての明示的公式は、A型の場合には多くのことが知られていて幾何学的表現論との繋がりも判っているが、A型以外の場合には殆ど何も判っていない状況であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の固有関数の構成には、その準備段階としてMacdonald作用素に関する漸近自由解(野海・白石)の研究が不可欠である。また、Macdonald漸近自由解は、幾何学的表現論に自然に付随する形で、明示的公式を得ることもできる。よって、このような方針を、楕円的Ruijsenaars差分作用素の場合にまで自然に延長するため、非定常な楕円Ruijsenaars方程式、及び、非定常楕円Ruijsenaars(固有)関数、の存在を想定することとなる。 非定常楕円Ruijsenaars関数は、affine Laumon空間の幾何学に即して定義されうる。しかしながら、それが満たす非定常方程式については、現在なお残された課題の一つである。幸い、非定常方程式についてはいくつかの候補を見つけることができて、Edwin Langmann氏、野海正俊氏と共同研究を継続している。 非定常楕円Ruijsenaars関数の定常極限が、楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の固有関数を与えることについては、これまでに数式処理プログラムを用いて様々な角度から確認してきた。定常極限においても、何かうまい明示的公式を得ることができれば、楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の研究をさらに深めることができると期待される。現在までに、このような方針で数多くの特殊ケースを具体的に調べ、多数の非自明な恒等式の予想が得られた。それらは、いわば、共形場理論の差分類似として理解されるべき一連の等式であると思われ、q ビラソロ代数、量子群、などの代数の表現論から導出されるべきもののように見える。 (2)Dn型 q 差分戸田方程式の固有関数は、Bn型のそれに比べて相当複雑なものである。それに関する幾つかの実験結果(予想)が得られてきたので、一般化ないし証明を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)楕円関数的Ruijsenaars差分作用素の固有関数の性質(特に、双スペクトル双対性、モジュラー変換性、関数の明示的公式、ないし特殊値、代数的ないし幾何学的な立場からの構成法など)について、現在までに折に触れ行ってきた実験的研究をひとつに繋ぎ合わせて、より良い理解を目指す。非定常楕円Ruijsenaars関数の満たす非定常方程式を確立する。具体的には、非定常Ruijsenaar方程式のある極限(非定常アフィン戸田方程式への極限)が、アフィン量子群の表現論で記述されることの証明を完成し、それを基礎として一般の場合を考察する予定である。 最近、Shamil Shakirov氏は、q ビラソロ代数のある5点の共形ブロック(ただし1点は退化させる)が、ある種の非定常方程式を満たすという予想を得た。彼の方程式も、特殊ケースとして、非定常アフィン戸田方程式を含んでいる。他方、q ビラソロ代数の相関関数の満たす方程式(の予想)が(かなり一般な状況下で)具体的に書き下された、ということはまさに驚くべきことである。 そのような理由で、私はShakirov氏の方程式を徹底的に研究することを決断した。長い間、全く手のつけようのなかった問題が、現在、いろいろな方向から関連しながら、その具体的な姿を見せ始めたのだと感じている。 実は、この問題の背後にも、affine Laumon空間の幾何学が存在する。affine Laumon空間を与える、鎖鋸箙多様体の上の自己言及束のオイラー指標を考察すれば、Shakirov氏の考える状況を幾何学的に記述することができる。さらに、そこに現れる方程式は量子化されたパンルベVI方程式の構造によって支配されているものと予想される。代数的な構成法、様々な方程式の導出と証明、などについて、非定常Ruijsenaars関数の諸性質の究明と併せて解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大によって、海外渡航による共同研究・研究打ち合わせ・国際会議講演を見合わせる必要が生じたため。
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