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2019 年度 実施状況報告書

作用素環の核型次元の研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K03516
研究機関京都大学

研究代表者

佐藤 康彦  京都大学, 理学研究科, 助教 (70581502)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード核型次元 / 分解階数 / 2-positive / 接合積 / トレース空間 / Jiang-Su 環
研究実績の概要

研究題目にある核型次元とは直交性を保存する「完全正写像」によって特徴付けられ、ある種の有限次元近似を実現するものである。当該年度の研究では完全正写像が直交性を保存する同値条件を精査し、直交性が1元的な計算式で特徴付けられる事を示した。更に同様の技術を用いて、完全正写像のみならず、より弱い「2-positive」と呼ばれる正写像の条件でこの特徴付けが得られる事が解った。この結果は論文 arXiv:1908.03466 にまとめ、専門誌へ投稿中である。
今日まで作用素環論では、核型次元や直交性の保存を考察する上で、完全正写像という強い性質が必要であると考えられてきた。しかし、この研究により今まで手のつけられていない 2-positive な写像を同種の手法で取り扱う事ができる様になった。更に同論文では分解階数と呼ばれる概念から「完全正」の条件を取り除き、弱い 2-positive の条件に制限可能である事も示した。

また、分類理論の重要課題である Toms-Winter 予想について、残された「トレース空間」の条件を力学系の観点から研究した。作用素環、特にC*-環の分類理論はK-群とトレース空間の組みによって特徴付けられ、これらの情報が一致する時 C*-環として同型という定理を目指している。これまでの研究では、端点トレースの空間が有限次元の時に Toms-Winter 予想が正しい事を示し、残る問題は無限次元の場合のみとなっていた。当該年度の研究では端点トレースの空間が無限次元となる様子を詳しく調べ、与えられた Choquet 単体をJiang-Su 環の単純な接合積のトレース空間として構成した。この研究により、分類可能なC*-環でトレースを唯一つ持つものは接合積を取る事でトレース空間を自由に変形できる様になり、端点トレースの空間が無限次元となる豊富な例を与える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究課題にある核型次元の概念を完全正から弱い 2-positive の条件へ緩和する事ができた。この研究から核型次元の派生として、弱い条件で定義される次元や階数を新たに導入する事ができる。この事はよく知られている単純核型 C*-環の分類定理に対し、より広い範囲の展望を与える。具体的には 2-positive な写像で直交性を近似的に緩めたものを考えると、完全正ではない例が幾つも考えられるが、これらから作る核型次元の類似条件を導入する事ができる。これらの拡張により既存の核型次元ではとらえられない核型 C*-環の構造定理や分類理論への応用が期待できる。現段階の分類理論では核型次元が無限となる例に対し、尺度となる概念がほとんど無く、個別に例を構成して調べるという手法にとどまっていた。こういった状況に対し、我々の研究は 2-positive な写像が直交性を保存する条件にどれだけ近いか?という目安を与え、その事をもって分類可能である事の度合いを表すと予想できる。本研究は既存の分類定理の外側の例に重要な進展を与えたと見なせる。

研究実績の概要で述べた通り、単純な接合積の端点トレースの空間として無限次元空間を統一的に構成する方法を与えた。この手法で構成した例に対しても問題となる Toms-Winter 予想が肯定的に従う事が確かめられている。これは障害と考えられていた「無限次元の端点トレース空間」の条件でも接合積という力学系的な例では予想に対して肯定的な解を与えている。力学系を背景とする例では否定的な現象を引き起こす事が無いという当初の予定を裏付ける結果である。

今後の研究の推進方策

「無限次元」の距離空間を基盤とする Villadsen 環の核型次元は、特性類の不変量により核型次元が無限大になる事が知られている。この Villadsen の考察した現象を 2-positive な正写像を用いて、より精密に研究する。手掛かりとして M. Rordam, L. Robert, M. Christensen らが Villadsen 環に対し核型次元より詳細な情報を「(m,n)-divisibility 」と名付け研究している。この分解可能性は核型次元を表す直交性を保つ完全性写像の個数と、その定義域となる有限次元環の大きさを抽象的に表したものである。一方これまでの研究で、直交性を持つ完全性写像の技術が近似的に直交性を保つ 2-positive な写像へ拡張できる事が解った。この方向性で、彼らの分解可能性を 2-positive を用いたより密度の高い概念へ改良する事が期待できる。今後は 2-positive に置き換えた概念がどの程度特性類の不変量へ影響を与えるか?という視点で研究を進めたい。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた3月の海外出張を取りやめたため。

次年度はウイルスの影響下で海外出張ができない状況を想定する必要がある。その対処として、オンライン会議や動画配信セミナーによる研究活動の補填を計画している。そのために必要な電子機器の設備強化に助成金を使用する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 2-positive almost order zero maps and decomposition rank2019

    • 著者名/発表者名
      Yasuhiko Sato
    • 雑誌名

      arXiv:1908.03466v1

      巻: ー ページ: ー

    • オープンアクセス
  • [学会発表] Actions of amenable groups on trace spaces of C*-algebras2020

    • 著者名/発表者名
      佐藤 康彦
    • 学会等名
      九州大学、作用素環論エルゴード理論セミナー,
  • [学会発表] 2-positive maps of almost order zero and decomposition rank2019

    • 著者名/発表者名
      Yasuhiko Sato
    • 学会等名
      Special Week on Operator Algebras 2019, in the East China Normal University
    • 国際学会 / 招待講演

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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