研究実績の概要 |
レブナー理論とは複素平面内の双曲的な単連結領域の時間発展による変型を扱うものであり,対応する等角写像の変形を微分方程式で記述,制御することを可能とする. 理論自体は20世紀初頭に導入され古典的と見做されていたが,21世紀になり統計物理・共形場理論への応用が見出され,さらに2012年には関連する方程式を全て統合・一般化する統一レブナー理論が提唱された. 本研究課題の先行研究により,レブナー理論において取り扱う対象を等角(単射かつ正則)写像から, 正則普遍被覆写像に拡張可能であることが示されている.本研究課題の目標の一つは, 従来の単射正則写像の場合には生じないが,正則普遍被覆写像にまで拡張された時にどのような現象が生じるか, そしてその原因を追求することである. また時間パラメータに関し正規化されたレブナー鎖の研究を一般化する際の理論の整備を行うことも目標である.当該年度においては, レブナー鎖の研究に深い関わりを持つ Julia の補題について部分的ではあるが結果を得た. 単位円板を単位円板の中へ写像する正則函数には角微分係数と呼ばれる境界点での一般化された微分係数を持つことが知られている. この微係数が既知の時の増大度評価が Julia の補題であるが, これを精密化することにより増大度のみならず歪曲評価につなげることが出来ることを発見した. これからの課題として sharp な歪曲評価, 並びにより深い variability region を確定することにつなげて行きたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レブナー鎖には単円盤から自身の中への正則写像の2パラメータ族である evolution family が付随する. このため本研究のような課題を遂行するためには evolution family 自体の研究が必要不可欠である.従来は正規化された evolution family の研究が主にされてきていて, 2つのパラメータについて連続なものばかりの研究であった. これを左右のパラメータの片側のみの連続性を仮定したらどうなるかは知られていない. 当該年度の研究により右パラメータに関する連続性があれば2変数としての連続性を示すことが出来た. また左パラメータに関する連続性から2変数としての連続性が示せるか否かについての研究を行ったが, こちらはまだ結論を得ていない. ただし双曲的に有界と言う条件と左連続性があれば2変数としての連続性が得られることは分かっている. 研究実績の概要部分に述べたJulia の補題にまつわる歪曲評価と上記の結果と言う, 2つの結果を得ることが出来たので研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は東北大や東工大への出張や, 本研究と関係が深い研究者の招聘を予定していたがCOVID-19の為にとりやめざるを得なかった. まだ予断を許さない状況であるが, 出張などが出来るようになったあかつきには東京学芸大の山田名誉教授や東北大の須川教授を招いての研究打ち合わせを行いたい. 研究の主体となるのは単位円板から自身への正則写像に関する Julia の補題,及びそれにまつわる歪曲評価について, 上半平面から自身の中への正則写像についての対応を考えることである.何故ならば stochastic レブナー方程式などの研究では半平面容量という概念が大きな役割を果たすが, これの単位円板での対応物が角微分係数である. 従って単位円板で得られた結果の対応物を考えることにより stochastic レブナー方程式への応用があるのではと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の為に当該年度に予定していた国内出張,国外出張を全てとりやめざるを得なかった.まだ予断を許さぬ状況ながら今年度の終わりには状況が緩和されていることが前提であるが, 国内出張や国内の関係の深い研究者の招聘を行うことを考えている. また出張等をしなくても研究打ち合わせが行えるようにルータなどのネットワーク環境の整備やデスクトップパソコン,ノートパソコン,ソフトウェアなどを購入したいと考えている.
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